Repaint


注意
ストーリー後イベントについての話。ネタバレ注意。
登場ポケモンの捏造もあります。







「前を見なさい!」
厳しい声が飛んできて、この状況に意識を遠くに飛ばしかけていた私は正気に戻る。
私の後ろにはダイマックスしたミミッキュとアブリボン、フレフワン、エルフーンがいる。ダイマックスしたポケモンが4体もいる空間なんてどこを探し回ってもそうそう見つからないだろう。彼らの圧がぴりぴりと伝わる。
「すみません!」
私を叱咤したのは最近代替わりをしたジムリーダー。
ジムチャレンジ開始だっていうのに、前のジムリーダーのポプラさんがジムを留守にすることが多かった。
コトさんたちはあらあらと笑っていたけど、私は残念な気持ちで鍛錬をしてた。
そんなときにいきなり帰ってきて、面倒を見ろと押し付けられたのがこの、ビートさんだ。
彼を最初見たときは生き急ぐ彼を見て、疲れないのかと思った。
なにもかもを追い抜いて、走っていく姿に焦った。
彼はジムにきていた観客とジムチャレンジャーの避難の指示を出した。その指示通り、皆避難したというのに、援護のつもりで来た私が足手纏いになっているなんて。
私と同じ色のユニフォームを着ているその人は一文字に唇を結んで、私から視線を外した。
彼の腕が持ち上がる。彼の操るポケモンから、閃光が弾ける。
私はそれに食らいつくように、手持ちに指示を出す。

急いで手を伸ばしたけれど彼はおろか、後ろではためくリボンさえ掴めやしないのだとわかってしまう。

諦めてしまえ。
チャンピオンと戦う彼に呪いをかけた。
立ち止まってしまえ。
修業をやめない彼に呪いをかけた。
お願いだから、そんな走っていかないで。
「トゲキッス!エアカッター!」
せめて、せめて、
私は彼の足を止めさせてしまっても、手の届く距離まで追い詰めたい。
旋回を指示して、撹乱するくらいしかできない現状が、まるであがく私のようだ。
彼が戦っていたブリムオンをボールに戻す。
きらきらと、ボールは大きくなる。指の先まで意識された動作はポプラさんの指導の賜物だ。
彼が投げたボールから、キョダイマックスしたブリムオンが現れる。
鼻の頭がじんじんする。
追いつけないのだと見せつけられている。
でも、そんなことよりこの瞬間をずっと見ていたい。
私が見蕩れている間に、キョダイテンバツが決まる。
やっと「私」が追いついて、悔しいと思う頃には四体のポケモンは彼の手の中にあった。
「……これで最後ですね」
ころりと手の中で転がったボールを覗き込むブリムオンにお礼を言って、ボールに戻したビートさんが私の方に歩いてくる。
一瞬の気の緩みでさえ、自分に厳しいこの人は私を許してくれないだろう。
「お疲れ様です、まずフィールドの整備をします」
指摘されないことに安心して、反面違和感を感じる。諦められたのかと心臓がぎゅっと軋む。
「先ほどのことは咎めませんよ、なまえ」
顔に出てたのか、冷ややかな瞳が私を見下ろしている。
「……はい」
「このジムのトレーナーたるもの、もっと余裕を持ちなさい」
あなたにだけは言われたくないと言い返したくて、言えないまま無言の抵抗をする。
「あなたはピンクというよりは赤色ですね」

「精々頑張ってください」
ああでも、伸ばさずにはいられない。

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