リスポーン


「……なんで怒っているんだい?」
やっと巨石の調査を終えた僕を迎えたのは、機嫌をすこぶる悪くした恋人だった。
返事もしてくれないらしく、彼女の横に寄り添うように座ってみる。
「あの報道を見てしまったのかな」
あのときの報道クルーたちの行為は賞賛に値するけれども、こんなことを引き起こすなら無くても良かったなぁと少し頭をよぎってしまう。
「ええ、そうです、見ちゃいました」
「ごめんね、また心配させてしまったかな」
「……正直どうせまた怪我の一つもなく、普通に戻ってくるとは思ってたんです。ダイゴさんのことですし」
彼女にこんなことを言わせてしまうのは、日頃の行いということなんだろう。そろそろまたミクリからお叱りを受けてもおかしくない。
「まあ僕がいちばん強くてすごいからね」
懲りない僕に変わらず心配してくれているなまえちゃんの心労は、ほんの少しだけ想像できる。
「違うんです」
なまえちゃんはむすりとした表情のまま、だけどいつもとは少し違って暗い表情で視線を膝に落とした。
「……言ってごらん、それとも僕には言えないかな」
「い、言えないわけじゃないですけど」
「じゃあ教えて」
なまえちゃんは視線をぐるぐると動かして、意を決したように顔を上げた。
「あ、あのテールナーはマスタークラスの優勝者の子のでしょ!」
「……えぇ?」
「非常事態ってことは分かってるんですけど!でも、ダイゴさんのメタグロスのうえに……!それに息も合ってて!知ってるんですよ、トレーナーの子も才能があって可愛いことも!」
自分の発言が恥ずかしいのか顔を赤らめたなまえちゃんは、混乱したように涙目で僕を見上げている。
「あっはは」
つい笑いをこぼしてしまった僕に、なまえちゃんの顔が赤みが強くなる。
「笑いごとじゃないんですよ!私にとっては!」
なまえちゃんは僕の色違いのメタグロスのことを随分気に入っていたことを思い出す。
白いボディが珍しいのか引っ付いたり、手入れを手伝ってくれたり、と彼女のポケモンが嫉妬しそうなくらいに甲斐甲斐しかったことを思い出して、少し苦笑い。
そんな彼女やトレーナーの僕や手持ちたちしか触れることのない彼の背中に、テールナーを乗せてしまったことは彼女にとって嬉しいことではないのだろう。
ここでメタグロスを出すと、余計こじれそうな気がする。
「それに、あのテールナーもメスでしょう」
彼女はあまりニュースとかを見る方でもないし、他の地方にも興味がない方だと思っていたのに、存外カロスへ興味があったようだ。そんなに興味があったなら一緒に連れて行ってあげても良かったのに。
僕の視線が彼女の求めていた物と色が違ったのか、先ほどよりも表情が険しくなる。
「なんか勘違いしてませんか」
「そうかな」
手っ取り早く彼女の機嫌を直さなくては、せっかくの時間がもったいない。そっと彼女の腰に手を添える。
「あの時は緊急事態だったんだ、分かるだろう」
「知ってます……」
「君の元に帰ってくるために結構頑張ったつもりだよ」
「わかってます……」
僕の方に身体を傾けはじめるなまえちゃん。もう一押しかなと少し下世話なことを考える。
彼女がこんな風にやきもちを焼くことはあまりない。前はどんな時にこんな反応をされたかな、と考える。
「……僕が本当に背中を預けられるのは君だけだよ」
トレーナーとして僕の隣で戦うことが出来なかったこと、を悔やんでいるんだろうか。そもそも優秀なトレーナーであるところのなまえだ。恋人の耳元で呟くには甘さの足りない言葉だと思うし、僕個人としてはもう少し雰囲気を作りたいところだったんだけど。まあ本人はこの言葉を聞いて嬉しそうに口角を上げたり、ばれないように我慢したりと忙しそうだ。
「ごめんなさい、無事でいてくれてありがとうございます」
「謝らなくていいよ、僕も好きなようにするから」
ここまでしたのだから、ご褒美くらい貰ってもいいはずだと彼女の唇に顔を近づける。
「もしかして」
あと少しでリップクリームを塗ってあるその唇と触れ合いそうなところで動きを止める。なまえちゃんは素直に目を閉じていたけれど、僕の声で少し眉を動かした。
「カロス地方じゃなくて僕のことが気になってたのかな」
正解だよね、もちろん。
また機嫌を悪くしたなまえちゃんのために、メタグロスには頑張ってもらおう。

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