シンクロ


「なまえ」
「あ、おはよう!」
朝からビートくんに会えるなんて、すごい偶然だ。
「おはようございます」
「珍しいね、もしかしてキバナさんとことかに用事?」
ナックルシティはアラベスクからまあ他の街に比べると近いし、都会な方だから見かけることはあるけれど。
「いえ、バアさんが取り寄せていたものをブティックに取りに来たんです」
「ポプラさんのかぁ、納得」
ビートくんがじっと私の方を見ている。話を続けるわけでもない彼の目が私の手元や顔をうろうろして、ビートくんらしくない。
基本的に相手の目を見て話す人だし、よほど何か気になるのかと思うけど私の顔そんなに変?
でも寝癖とかなら嬉々として嫌味混じりに教えてくれそうなものなのに、なんなのだろうか。
などとすっとぼけるのもなんだけど、でも彼がわざわざ私のチョコレートを受け取るために来るようなタマだろうか。
そう、今日はバレンタインデー。お菓子会社の戦略にガラル地方も飲み込まれ、元々あった男性からプレゼントを送る文化といつのまにか女性からチョコレートを送る文化が共存している。
だからもちろん用意している。
私がビートくんにチョコを渡さないとかあり得ない。
だけど、あのビートくんが私にチョコレートをもらうためにわざわざ町を出てまで会いにくるというのはもうこれ以上ないくらいの解釈違いなのだけど。
どう声をかけるかも迷って二人して沈黙していたなか、口火を切ったのはビートくんの方だった。
「……ぼくに渡すものがあるでしょう」
なんて言い方だ。私が恋する乙女だったら百年の恋も冷めるぞ。いや、冷めないんだけど。
差し出された手をじっと見つめる。
要らないとか言われるよりは断然良いけどさぁ、そんな言い方ないと思うんだよね。ピンクじゃないと思うんだよね。
「さて、どこにあるでしょうか」
「……ふざけてます?」
「大真面目です」
しげしげと私の頭から足にかけてビートくんの視線が動く。
「カバンの中でしょう?」
それ以外に私がチョコレートを隠し持てる場所なんてないから当たり前だ。でも、私がそんなことを問題にするわけない。そんなクイズならポプラさん的に落第だ。
「見ていいよ」
「……お借りします」
トートバックの中を覗き込むビートくんにニヤニヤと口角が上がる。
口に手を当てて、思考を巡らせるポーズはまるでバトルのときのようだ。
「ヒント、今日の私の手持ちはフルメンバーです」
「……あなたの、アーマーガア」
いつも出かけるときは許される場所では出しているうちの相棒は、いまどこにいるでしょうか。
「まさか」
「当たりー、一歩遅かったね。アラベスクに既に輸送済みです」
「……このぼくに無駄足を踏ませるなんて」
「あれ、ポプラさんのおつかいじゃなかったの?」
今のは口が滑ったと見ていいかな?
「……ふん、あなたも精々早く帰ることです。萎れてしまうのも可哀想ですからね」
……まさか。
苦々しい顔から一転。さっきの私のように、にやりと口角を上げたビートくんが踵を返す。
「ビートくんのばーか!」
捨て台詞を吐いて、自宅へ走る。ああ、こんなときにアーマーガアがいてくれたら。
勢いよく開けた扉の奥にはビートくんのブリムオンがいた。机に置こうとしていたところだったようで、ニッコリ笑って私にそれを手渡してくれた。色とりどりの花で作られたブーケ。その中に隠れていたカードが浮かんで私の胸に飛び込んでくる。サイコキネシスだ。彼の自筆で書かれた求めていたピンク色の言葉。
ブリムオンは悪戯が成功したのを見届けて、テレポートで消えてしまった。



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人の家にテレポートは出来るとかやばいなポケモン界
2020.03.09 ホワイトデーがまだ来てないのでバレンタインデー認定

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