貼って挟んで連れてって


しゃがみ込んでさっきのバトルのレポートを書いていると、その上に影が落ちた。
「何を書いていらっしゃるんですか」
「ショータくん……」
見上げた影の主こそ、先ほど再会の挨拶としてバトルを終えた相手だった。
今回は私の負けだ。二つ前の街でバトルをしたときは私の勝ちだったけれど、いつの間にか強くなってきた彼に圧倒されてしまった。
彼は彼で手帳にメモをしていたから私も同じようにレポートを書いていたのだけど、彼の方は書き終えてしまったらしい。
「レポートだよ、私の旅の記録」
「ああ!僕のバトルメモのようなものなんですね!」
「うーん、私はどっちかっていうと旅全般の記録だけどね」
「そうなんですか」
私の隣にしゃがんだショータくんがメモをまた取りだして、何かを書いている。目線の先にはバトルの疲れで少し落ち着いているパンプジンがふよふよと浮かんでいる。
「パンプジンの観察させてもらいます!」
「……どうぞ、かわいいでしょ」
まっすぐな笑顔で「はい!」と頷いた彼に、私も笑い返す。
今日出会えたこととバトルのことを書いてから、彼の手が止まるのを待つ。
パンプジンは見られていることに気付いて、くるりとその身体を回転させる。ぴかぴかと身体の内側を光らせるものだから、わあとショータくんの声が上がる。
「そういえばパンプジンということは、どなたかと交換をしたんですか?」
「うん、ヒヨクシティを出てすぐペロッパフを連れたトレーナーがいてね。進化したその日に写真も撮ったよ」
そうか、ヒヨクシティでショータくんと出会ったときはまだバケッチャのままだった。
「へえ……」
「うん、確か……レポートに……」
その日は雑貨屋さんで買ったシールとその時撮った写真を貼ったからめくればすぐ出てくるはずだ。
「あった、ほら」
いつの間にか表情を曇らせた彼におずおずと差し出す。なにかしてしまっただろうか。
「……なんだ、お二人で写真を撮ったんですね」
「え?」
「僕の時みたいに、その交換をした方と写真を撮ったのかと」
彼が視線を落とした写真に映っているのは私とパンプジンだけだ。
「……え、っと」
「その方には断られたんですか?」
「ううん、お願いしなかったの。思いつかなくて」
私は別にバトルをした人や、こんな風に交換した人全員に写真を頼んでいるわけじゃない。
レポートの続きを書くふりをして、ページをめくる。少しページを戻していけば、その数日前の日付が載っている。お願いして撮った写真には、微笑むショータくんと少し固まった笑顔の私が並んで立っている。
「懐かしいですね」
さっきまでと違って穏やかに笑っていったショータくんの笑顔に、身体が勝手にかたくなる。パンプジンのメモを取っていたはずのショータくんは私の顔を覗き込んだせいだ。
「そのデータ、送ってくれませんでしたね」
「だ、だって私顔変だったから」
「そうですか、とってもかわいいと思いますけど」
「あ、あんま見ないで」
情けない声しかでないから本当に無理だ。
レポートを使って顔を隠そうとする私に、笑い声が聞こえる。
「笑わなくてもいいじゃん」
「そうだ、いいことを思いつきました!」
「な、なに」
「もう一度撮ればいいんですよ。なまえ、カメラ使えますか」
「う、うん」
「パンプジン、撮ってくれますか」
私よりもパンプジンが素直に頷いている。どういうことだ。しゃがんでいた私を引っ張り上げたショータくんと横並びになる。
「なまえ」
ショータくんの声が近い。
「次はちゃんと僕にも写真くださいね」



一日だけ、一緒に歩いてエイセツシティへ向かう別れ道であっけなく別れた。
次の町で、写真を現像しよう。そのあと彼の連絡先に、出来たら可愛く撮れたやつを送らないといけない。
レポートに、そんな決意もついでにメモ代わりに書き込んだ。
写真を貼るための余白を残して、それからペタリとシールを貼った。
ショータくんのバトルメモが脳裏に浮かぶ。付箋だらけの、メモが彼のポケットにしまってある。
あなたのふせんになりたい。
レポートをしわが付くくらい抱きしめた。


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