彼女のつくったスイッチ


朝、目を覚ます。
覚醒した意識はぬくもりのなかを漂っている。
うっすらと部屋の天井を見たが目蓋は重く、視界は遮られ暗転する。
身動ぎもしないまま、自分の今の姿を思い浮かべる。
腕の中のなまえがしっかりとぼくを離さないことが心地良い。眠ったままのくせにぼくを離そうとしない健気さには、優越感を感じる。
カーテンに遮られた明かりは微かに朝を教えているし、早起きのお年寄りの多いこの町ではほんのりと外に人がいる音がしている。
今日はなまえと合わせた久々のオフだ。ジムリーダーにだって休息は与えられる。こんな早起きをしなくてもいいはずだった。
起きたときに緩めた腕に力を込めて、与えられた余暇をどう過ごすか考える。

彼女のことだから、放って置いたら朝ご飯なんてきっと遅くなるに違いない。
ベトベトンのように布団から這い出てきて、ぼくのつくった朝食に目を輝かせるのが目に浮かぶ。
当たり前ではあるけれど賛美の言葉をうんと溢れさせて、食卓につくなまえが手を合わせてぼくに感謝する。
そのあとゆっくりと次の休みまでに切れそうなシャンプーだったりを買いにいくのもいい、彼女が言っていたカフェに付き合うことだって悪くはない。
でも叩き起こして、ぼくと同じように活動を始めさせてあげたっていい。文句を言いながら起きたなまえは朝食を作るだろうし、ぼくは彼女が二度寝をしないように布団を干してしまえばいいはずだ。
そんなことを考えながらも、ぼくの体は彼女から離れようとはしない。鉛ででもできているのかもしれないほど、ぼくの体は彼女を閉じ込めて動かなかった。
「なまえ、あなたはどうしたいですか」
返事はない。
当たり前の無反応ではあるけれど、なんとなくむかついて彼女の鼻をぎゅっと摘んだ。
口呼吸をしているらしかったので、口も徐に塞いでみた。
自分の異変に気づいたらしいなまえが動き出すのを見て、手を外す。少し惜しい気もしたが、どうせ明日もこんなものだ。
「おはよ、ビートくん」
まだ重い腕の中の生き物がぼくのスイッチを押す。
血液が巡り出す。

「おはようございますなまえ」

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