あらしのよるは?


「降ってきたね……」
「最悪です……よりにもよってあなたとなんて」
ここはワイルドエリア。現在雷雨により移動不可。
居合わせたビートくんと横穴にキャンプで避難中だ。風がそこそこ入ってくる横穴の中でテントを広げることでどうにかしている。ついでに私のバチュルのネットがなかなかいい野生ポケモン避けになっている。
「まあまあ、仲良くしようよ」
バチュル、ヌケニン 、イオルブの三体。私のポケモンたちは虫パーティーだからか、エスパータイプの彼は相当嫌そう顔をしている。
ツンと顔を逸らす彼は分かりやすいので、私自身は嫌いじゃない。
「とりあえず火起こすね」
着替えも濡れてしまっているから乾かす他にはどうにもできない。
「ねえビートくん、私服脱いでいい?」
「なっ、……どうぞご勝手に」
「ありがと」
いい生地の服だったけど背に腹は変えられないので絞って、干すため用の紐を岩場に張って掛けていく。
「ビートくんは?」
「……まあ、あなたがどうしてもと言うならお借りしましょう」
「風邪引くからね、どうしても」
「……ありがとう、ございます」
彼は分厚めのコートと中に来ていたユニフォームを脱いで掛けていく。私も彼も割と一糸まとわぬ姿ということになるのかもしれない。
私は上着を羽織っているし、彼も下のパンツまで脱いだりとかはしていない。
パンツのまま座っている彼はバッグのなかにあったのだろう比較的濡れていない服を肩にかけているが、肩が震えている。そして私も同じく寒かった。雨のせいか気温も低く感じる。
「ビートくん、そっち行っていい?寒くって」
返事はない。炎の前に座っている彼の隣に座る。
「寒いね、やっぱり」
「仕方ないでしょう」
「ビートくんも寒いの我慢してる?」
私は上着を彼の肩に掛ける。彼は硬直させた後、私の方を見て顔を真っ赤にする。
「な、なにやって」
「ちょっと濡れてるけどあったかいでしょ」
「こ、ち、痴女!なんて格好してるんですか!?」
君に上着を貸したせいなのに、失礼だな。
少し不服ではあるが、もう一個バッグの底にあったタオルを掛けて、これでいいかと見返す。
「こんなものいりませんよ、お返しします」
「でも……」
「あなたなんかに助けられるほど落ちぶれてませんから」
「……わかった」
私は彼のこういうところは苦手だったけれど、素直に言葉に出すところは嫌いではなかった。
そこからほぼ会話はなく、ぱちっぱちっというキャンプの音だけが私と彼の間で鳴っていた。
「ビートくん、靴面白い形してるよね」
パンツと私が無理やり押し付けたタオルだけのビートくんが靴はしっかり履いているのがどうも違和感があって、くすりと笑ってしまう。
「……今のあなたよりは面白くないですよ」
「わかるー」
嫌味が通じないのが気に入らないのか苦虫を潰したような顔をしている。
「気持ち悪くない?」
「別に関係ないでしょう」
寂しいことを言われてしまった。
隣の彼の足に手を伸ばす。冷たくなった足首から、それこそ冷たすぎるその靴を奪った。
「なにしてっ!」
「あ、やっぱり中身も足袋の形なんだね」
「あなたほんとに」
立ち上がろうとして、足を取られているせいで動けないビートくんが驚愕の表情で私を見ている。
「離せ!」
「……もうちょっと脱いでみよっか〜」
彼の調子を崩しているということが、どきどきする私がいる。有体に言って興奮する。
靴下と素肌の間に指を這わす。するりと脱がした足はいつも履いているタイツっぽいやつの色くらい白くて、ちょっとむかつく。女の子みたい。
「きれいな足。爪もきれい」
彼の足の指をつかんで、まじまじと爪を見る。私のは形が悪いからつい、気になってしまう。湿ってるせいで、皮がふやふやしている。
「……あなた正気ですか」
だいぶ引いた顔のビートくんがいる。持ち上げたせいで、女の子のように、ひっくり返りそうな体を支えている姿にときめいてしまう。
「だいぶ正気」
へらりと笑ってしまったのが気に障ったのか、足がグイグイ引っ張られる。
「私の名前知ってる?」
「それ今関係ありますか!?」
「あるよ多分」
この顔をもっと見たい。顔を赤くするこの、口が悪くて綺麗な人をもっともっと見たい。
「呼んでよ」
せめてもの抵抗のように何も言わない彼に、すこし唇を尖らせる。
「いいのかな、そんな態度で」
足の裏をこしょこしょするような動きをする。彼は訝しげに私を見ている。
「もしかして効かない系?」
ツーっと足の裏に指を這わすと、びくっと足が反応する。彼の顔が険しくなる。
「や、やめなさ」
次は指全体でくすぐってみる。
「んっ……ひ」
そっか我慢してるのかぁ、と私はにたぁと笑ってそのままビートくんの足の裏を好き勝手に刺激する。
「くっ……ひっ……ふは」
随分我慢が上手ならしくて、本気の私は少し苦戦中。足がビクビクと反応しているので効いてないわけではないのだけど、と指の間に指を入れたところだった。
「なまえ!」
心臓がだいばくはつした。ケンタロスが体中を駆け巡るような、心臓の音。
私は彼の足を解放して、自分の胸を押さえる。ビートくんは顔が赤くて、私から距離を取っている。
「もっと呼んで」
座り込んでいる彼にぐいっと近づいて、強請ってみる。
「この変態!いいですか、金輪際僕に近寄らないでください!」
「え、ビートくんちょっと待って!」
立ち上がった彼のご機嫌取りは私たちの服が乾くまで続いていた。

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