ネオンサイン


ビートくんとなんとなくそういう空気になった。
ここは彼の家。
私と彼は数ヶ月前に恋人になった。ただ、私も彼も初めてのことで手を繋ぐのがやっとというとこだった。
ということでキスなのだろう、キスをするのだろうなんて情緒のないことを頭で考えながら、ゆっくりとビートくんの方を向いた。
「っ!」
「いったー!」
勢いよく近付いたビートくんと歯が当たって、嫌な音がする。
口を押さえて痛みに耐えるビートくんに、私だって痛いのに笑ってしまう。
「ビートくん下手くそ……」
正直な感想が口から出ると、顔をほんのり赤くして顎を掴まれる。
「こわ、食べられる」と茶化そうとするより早くぱくりと口を食べられる。
唇を合わせるだけなのに、腰にも手を添えられてぴりぴりする。すりっと唇をこすり合せるみたいなのに、やさしくて、いつものビートくんからは想像がつかない触り方。
「んっ……ふ」
ぞくりと身体中の細胞が熱くなるような、気分にさせられる。
私の反応が良かったのか、気分良さそうに笑っている彼を薄目で確認する。これで満足しないでほしい。私からもほしくて、要求するみたいに唇に舌を這わして舐める。
ビートくんの目が見開かれて、そっと細められる。そのまぶたの動きだけで、腰が跳ねてしまいそう。
視線が私をたしなめるみたいに、語りかけている。
彼の舌が私の舌に答えるみたいに口内に侵入してきて、
「ぶっは!」
「なんなんですかあなたは!」
「ビートくんの方こそ今の何!?」
私の顔の隣で手をついて、私の情緒の無さを責めるのだが、今の動きは明らかに変だ可笑しい。
「なにって、キスですが」
「なんで、べろ、……ふふっ」
今私の口の中を回転したよ?
爆笑する私にめんどくさくなってきたのか、離れようとするビートくんの首に手を回す。
「やだ」
これは良い判断だったらしく、笑われて不機嫌そうな彼の口角が少し上がる。
ちゅうと可愛い音を立てた割に次は、私の口の中を試すみたいに変な動きをしている。
でも今度は笑ってられない。二回笑ったらさすがに怒られるとかではない。舌が絡んできて、あからさまになんか上手くなってきてる。
自分のではない熱が不快ではない事実が、私の頭を掻き回してくる。むしろ気持ちいいなんてそんなこと。
口が離れて、つーと涎が伸びる。ビートくんの息が荒くてドキドキする。
「ん、」
ああ嫌だこの人、私の弱点を全て露わにしてしまう。なにをされても多分嫌じゃない。
「欲張りですよねあなた」
はやくも息が整ったらしい彼がまだ離れていない私の腕に嘲笑するようにそんなことを言う。
次はゆっくりと近づいてきて、舌先が先に触れる。そのまま貪るみたいに唇が唇を食んで、弄ぶみたいに引っ張られる。
「ふ、ぁ……」
乱暴に私の口の中を暴いていく彼の舌に、応えるように甘噛みをする。その反応は彼にとっては気分がいいのだろうか、楽しそうに笑い声が漏れた。その笑い声がいやにぴりりと刺激をくれる。
腰の辺りが変になりそう。身動ぐ私の身体に自分の身体を押し付けて、動けなくしてくるところがまた意地悪だ。
そろそろ息が切れてしまいそうだと身体を手で押しているのに、やんわりとその手を握られてベッドに押し付けられる。
「もっ……だ、め!」
息継ぎと一緒に抗議しようとするけど、その声さえ食べられてしまう。
逃げようとベッドを蹴って上にずれる。
「まっ……てぇ」
息絶え絶えの私が口を守ろうともう片方の手でガードしつつ、ビートくんを睨め付ける。
「嫌です」
ぎしっと嫌な音がして、上にずれた私を追う彼にまた唇を合わされる。
こういう時は好きって言って欲しいんだけど。
なんて言う言葉も食べられて、彼の中に飲み込まれてしまえとチカチカとする頭の片隅で馬鹿みたいに考えていた。

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