ふたりで食べて貴方は隣


「あげる」
巷では雪見だいふくの片方をあげることがプロポーズに値するのではないかという。
しかしならば。なぜパピコはプロポーズになり得ないのだろうか。
イリマは私のパピコを受け取った。普通に受けとった。渡した私に深い意味はなかったし、受け取った彼もまさしく、パピコに対してパピコとしての意味以外を持つことなく、素直に受け取っただろう。
パピコとはそういう食べ物なのだ。そもそもが分け与えるために存在しているが故に、個人として食べる雪見だいふくとは違い、その美味しさを二人ないしは三人と分け合うための食べ物。あ、お一人様は片方は冷凍庫に入れていいですよ、勿論です。それは未来のあなたと分け合うのです。それもまた真理。ちなみに私もよく私と分け合ってますよ、数分後のね。
「なにやってんの」
「はい?」
パピコの袋を向けて、蓋のゴミを回収しようとしたのだが、なんとイリマはあろうことか蓋のアイスをそのままにそこに突っ込もうとしていたのだ。ちなみにいうと、辛うじて今からの指に引っかかってるところだ。
「え、イリマ、だめ、ほんとそういうとこブルジョワみある、むり、育ちの違い感じさせる」
「ええ?どういう意味ですか」
「だからさあ」
イリマの指からフタ部分を取って、ちゅうっと吸った。うむ、二つのフタの部分を合法的にたべれるとは贅沢なり。
「三人兄弟とかだとこれを一人分とされる哀れな末っ子がいるんだぞ、私は違うけど」
「そうなんですか、なんと……兄弟がいるとは大変なんですね……」
「そうだよ、まったく」
吸い終えたフタを袋の中にいれ、私も開けようと引っ張ると少し溶けたことが悪かったのか、ぷちゃっと変な音を立てて中身が私の指を汚した。
「ぐぐっ……」
無理やりフタを引きちぎるように取る。結構溢れてしまった。……不覚なり。自然な動作で私の手を取り、フタをちゅう、と咥えた。
だれが?
……イリマですね。
「なにやってんの」
「なまえがあまりに美味しそうにフタを吸っていたので、格別に美味しいのかと」
「どう?」
「普通ですね」
「うん、だよね」
まあでもフタの部分好きだから文句はない。美味しいものは美味しいのです。
うんうんと頷いていると、イリマは私のもう片方の手をまた、それはそれは優雅に自然に引いて、ペロリと汚れた私の手を、手を……?なにやってんの。
「美味しさは僕も貴女も変わらないようで安心しました」
固まった私を尻目に、自分のパピコを食べているイリマは満足そうに微笑んでいる。
さてはこいつ、育ちの違いとか言ったのが気に障ったな?

戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -