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「よぉ、オマエらなにいちゃついてんだよ」
目の前に現れたのは、某スカル団さん。よく見なくても前の人とは大違い。モブでも違いってわかります。……みんな生きてますもんね。
「ところでなまえさん、」
「は、はい」
あ、あれ。
「これからスクールに戻りますか?」
「……あ、あー」
イリマさんはスカル団さんに目もくれず、私の方へと声を掛けてくる。スカル団さんはむしろ私よりもイリマさんを見ていて、なにかしらあるのだろうと推察する。
「……戻る予定はあります、けどぉ」
ちらりと声を掛けてきた、なんかすべった感じになってしまったスカル団さんを見てしまう。如何にもげきりんに触れてしまったような顔で、ボールを構える。
「何シカトくれてんだよ」
「いや、いちゃつくとか死語では?」
「ああん!?」
施設の入り口の前で絡むなんて、この人は迷惑というものを知らないのかと思っていたが、私が返事をしてしまったせいか余計に火に油を注いだらしい。彼がボールを投げて、通行人たちも距離を取りながら足早に通り過ぎていく。
「……仕方ありません、なまえさんは下がっていてください」
イリマさんがぎゅっと握って投げたボールから、ドーブルが現れる。ドーブル!わかる、わかるぞ!
しっかり記憶に残っているポケモンに、少し身を乗り出す。
「ドーブル!行きますよ!」
「なめんな!いくぜ、ヤトウモリ!」
スカル団さんからは知らないポケモンが繰り出される。どうみてもあくタイプに見えるけど……。
這い回るような動きのヤトウモリはすばしっこくてなんだか厄介そうな印象だ。
ドーブルはノーマルタイプで、確か先に覚えさせた技を使える。
確か、「スケッチ」だ。
這い回るヤトウモリにドーブルは振り回されながら、攻撃を避ける。
ポケモンだけなら、互角だったのかもしれない。少なくともレベル差だけでは勝てないことを私はもう知っている。
スカル団さんの指示は「いけ」とか「やれ」とか、攻撃指示ばかり。でもすばしっこい攻撃にドーブルも翻弄されている。
「ドーブル、一度立て直してください」
さっき聞いてた声に大匙一杯くらいの緊張感、でも、焦りじゃない。
「エナジーボールでしっかり狙って」
くさタイプ、緑の球が2連で放たれて、ヤトウモリをどんどん後ろに下がらせる。彼の視線がポケモンセンター、つまり背後に向けられているのに気づいた。ここではジョーイさんたちの迷惑になる。だから草むらの方へ戦線を押しているんだ。
「負けるな、ヤトウモリ!」
対するスカル団の人が焦ってるのが私にもわかる。
「次はかえんほうしゃです!」
ドーブルの尻尾から何故か出てくる炎が、ヤトウモリに直撃する。既に充分ダメージを受けているだろうヤトウモリの鳴き声。多分ゲージで言えば、黄色とか赤色だろうか。
ガシガシと頭をしきりに掻くスカル団の人の舌打ちが聞こえる。こんなに一方的に追い詰められることがあるのかと、私はぎゅっと自分の手を握った。周りを通り過ぎる人たちの視線が、スカル団の人に同情的にさえ見えた。
「……あ、ぁ〜!!!クソが!はじけるほのおだ!そこの女を狙え!」
……。一瞬、何を言っているのかわからなかった。
「ドーブル!なみのりです!」
イリマさんの焦った声を聞きながら、咄嗟に頭を抱えるみたいに守ろうとした私の腕が引かれた。ドーブルの尻尾がまた生き物みたいに、滑るように空を撫でる。
ほのおよりも早く、ぴちょっと水滴が頬に当たって目の前に勢いを持った水が広がった。
それはアローラの日差しを浴びて、きらきらと光りながら私と私の腕を引いたイリマさんとドーブルと、それからほのおとヤトウモリとスカル団の人、みんなを巻き込んだ。
目を開いたら、イリマさんが苦笑いを浮かべていた。ぽたぽたと滴る水が、やけに似合ってる。周りの人達は多分足元が濡れるくらいで済んだんだろう。
ドーブルは体を揺すって水を飛ばしていたし、ヤトウモリは倒れていた。びしょ濡れの私とイリマさんと水の勢いをもろに浴びたらしく尻餅をつくスカル団の人。
ヤトウモリとやらのタイプがはっきりわかるほどの活躍も見れず、悔しそうにポケモンを戻したスカル団さんが逃げ帰るのを見送った。
「ありがとう、ございます」
ぽつりととりあえずお礼を言ったら、にこりと笑ったイリマさんが首を振る。
「こちらこそ、危ない目に合わせてしまいました」
「いや、そんな」
今まで見た、誰より凄いバトルをしてた。私が見たバトルが少ないのもあるかもしれないけど。
「怪我はありませんか?」
このままスクールに帰るの?
「だ、大丈夫です」
「良かったです。さて、ではスクールまでお送りしますよ」
「あの!」
顔を上げて、イリマさんを見た。歩き出そうとした足を彼は戻した。
「なんでしょうか」
わざわざ立ち止まって私の方を向き直った彼に、言ってしまうか一瞬迷った私の声が出る。
「私のこと弟子にしてください!」
呆気にとられたイリマさんの後ろで、通りすがりの人が驚いて振り向いているのに気づいた。
「弟子、とはどういう意味でしょうか」
首を傾げたイリマさんに、私はここまできたらとやけくそのように吐き出した。
「私のポケモンバトルの師匠になってください!」
困ったように笑顔を歪めるイリマさんは、謙遜するようにこう言った。
「ボク自身まだまだ勉強中の身です、弟子だなんて取れません。ポケモンバトルならスクールでしっかりと学ぶべきでしょう」
「でも私、イリマさんに教えてほしい!」
先生のバトルとか、スカル団さんのバトル、それから街中で何度か見かけたくらいしかポケモンバトルを見ていないけれど、イリマさんのとは段違いだって私にだってわかった。私と戦った時は気づかなかった。多分本気じゃなかった(多分さっきのもそんなに本気ではなかったと思うけど)し、私に余裕もなかった。
「イリマさんみたいにバトルしてみたい」
「なまえさん。落ち着いてください」
頑張って言葉を尽くそうとするけれど、うまいこと言葉にできない。落ち着いてしまったら、多分私は宥められて、イリマさんはきっと私にバトルを教えてくれない。
「お願いします、私、」
情けない私を見ているイリマさんは、少し口を噤んでから、私の手を握った。
「わかりました、ボクで出来ることであればいくらでもお手伝い致しましょう」
「ほんとですか!」
「ええ、もちろん」
触れた手の冷たさを感じて、少しだけ頭が冷めた。
イリマさんの困ったような表情に、やっちゃったなって思いながら誤魔化すように笑った。

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