ロングロングバケーション


ウルトラビルディングとハウオリシティについての考察から派生しています。意味がわかんなかったら調べてみると面白いと思います。





最初に、エスパータイプは怯えきってモンスターボールから出ることをしなくなった。
ゴーストタイプの姿がなくなって、みずタイプは母なる海に還り、くさタイプとじめんタイプは地中に潜り、ほのおタイプやいわタイプ、はがねタイプは山深く洞窟へと戻って行く。空を見上げてもひこうタイプは見当たらず、フェアリータイプは他のポケモンたちに寄り添うように同じく消え、ノーマルタイプはそれぞれの巣から離れない。
トレーナーのいるポケモンたちも、トレーナーの近くに寄り添い、悲しく鳴くもの、姿を消すもの、周囲を警戒し手もつけられないもの、それぞれが存在した。

そしてもちろん、それは人間にも言える事だった。
いつから始まっていたかはわからない。
ただ、私たちはこの世界がもうすぐ死んでしまうことを知っていた。

メレメレと共にある、なんて時代錯誤なことは言わない。おじいちゃんやおばあちゃんのように、私はここを選べない。
私はただ、惰性のようにここに留まっているだけだった。お金のある人はとっくに違う星に逃げる計画に乗り、どこか遠くに行ったらしい。
ただ、日に日に悪化して行く状況に、きっと誰もが諦めている。そう思っていた。
「ねえ、イリマ」
ぺたぺたと、ペンキを塗っているのは島のキャプテン。
彼は私に気付くと、ドーブルと手を止めて私の方に向き合った。
「はい、キャプテンのイリマです。どうしたんです、なまえ」
にこりと笑って私にそう言った彼は、キャプテンになった時と全く変わらないような笑顔でそう言った。
「……変わらないね」
私は思っていたものと違う反応に困った。
だって、もっと疲れた顔の一つでもすればいいのに、彼はまるで昔みたいに、このメレメレが崩壊する前みたいにそう言ったから。
「なにがですか?」
それも強がりだったらまだ、私も気を使ったフリをして「いつもありがとね」とかキャプテンに声を掛けるようにいつも通りの返答をすることだってできたけど、彼は恐らくいつも通り答えた。
こんなに人が荒んで、ポケモンも怯えて、崩壊していっている世界で、なんで彼はいつも通りなんだろう。
「ね、ねえ、イリマ」
「なんでしょうか」
「なんで、柵、まだ塗ってんの?」
言い方が嫌味みたいで、嫌だなあ、って自分の言葉なのに思ってしまう。まるで、それが意味ないみたい。ううん、もうメレメレの柵の向こうの草むらにはポケモンなんていないし、他の部分が壊れてて、わざわざ柵を開けて使う人なんていない。もう、このハウオリで道らしい道もないのに、なんで。
「意味もないのに、なんで塗ってしまうんでしょうか」
返事はまた、わかんないものだった。
イリマにもわかってないのかな、でもそんな風には見えない。イリマは真っ直ぐ私を見ているから、そんなに風に見えなかった。
「理由をつけるなら僕の仕事だからです、ね。そろそろペンキも切れてしまいますが、それでもこれは僕の仕事です」
そうだった、アローラには食べ物こそまだ余裕があるけれど、ペンキとかそういう自然のものじゃない物はあんまり手に入らなくなった。誰も海を渡らなくなった。
きぃ、とイリマが柵に手を掛けた。まだ、塗ってない部分なのだろう。ドーブルはイリマの足にじゃれ付くようにくるくると回っている。
「僕のキャプテンとしての最初の仕事でしたから」
「そうだったっけ?」
「ええ、そうなんです」
彼は力強く頷いた。イリマがそう言うならそうなんだろう。
「そう、まだイリマはここにいるんだね」
「僕はメレメレ唯一のキャプテンですから」
そう言えば、イリマはそんなやつだった。キャプテンになった時も今も自分に自信たっぷりなやつだった。
「そっか」
顔がにやけてしまう。変わらないものもきっとある。そんな事実が嬉しくて仕方がない。
私のポケットの友人も、きっとそう。
「なまえ」
「なに?」
「貴女はここを出ないんですか?」
寂しさを孕んだ彼の視線は、柔らかだ。私と同じものを見ていたのだ、彼だって。ここを離れていく人もポケモンも見ていたのだ。
「うん。今は、まだ」
「そうですか」
「うん、イリマもいるんでしょ?」




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