「おかえり、ノボリ。なまえは?」
すこし不機嫌そうな弟が睨んできています。

「こちらに」

眠ってしまったなまえを横抱きをして、つれて帰るか迷いましたが、さすがにクダリに会うのに問題かとおんぶをして帰ってきたわたくしは、後ろを向いてクダリになまえをそっと返す。

「僕に仕事まるっきり押し付けたのはこのため?」

「ええ、申し訳ないと思っております。ですが貴方が邪魔をしてこない最後の日ですから」

「あのね、ノボリ」
「本気ですよ」
本気?って聞いてくることくらいすぐに分かりました。これでも何年も何年も双子をさせていただいてますからね。

「ぼくはね、なまえにしあわせになってもらいたいし、親として幸せにしたい」

「ええ、存じております」
「だから、僕は許す気はないよ」

クダリもわたくしの言葉が予測できたのでしょう、食い気味に言われたそれは予想どおりでした。

「ええ、でもそれはお前の話でしょう。なまえが望んだら、貴方は赦すでしょう」

「はあ!?まさかなまえに手ぇ出してないよね!?」
「勿論、出してませんよ」

玄関で、寝ているなまえの前で、この話を続けるつもりはありませんでした。
わたくしは勝手知ったる片割れの家に上がり、なまえを抱えたクダリのためにリビングへの扉を開きます。

「知っているでしょう。わたくしもなまえをあいしているんですから」











彼女を、なまえを初めて見たのは、新生児室でした。
無垢で、真っ白な彼女を見て、愛おしいと感じました。生まれたてのポケモンたちを見たときよりもっと、守らないとという保護欲を。いとしさを。感じさせられました。
「クダリ」
「なに?かわいいでしょ、僕の子」
「ええ。」
食い入るように見つめていたわたくしをちらりと見たクダリに言います。

「とても」

きっとこのとき既にクダリは気づいていたのではないだろうか。今となってはそう思います。




彼女をはじめて女として、いとしく思ったのは、彼女の母、クダリの妻が亡くなったときでした。
必死に涙をこらえるその姿に、自分の感じていた愛しさに違和感を感じました。
「のぼりさっ」
クダリが遺族としての仕事に追われているとき、頼れる人がわたくししかいない彼女の、なんと辛そうな姿に、胸を打たれました。
と同時に自分の仄暗い感情に漸く、気づきました。



それから少しして、葬式が終わり、彼らの日常に戻りつつあるとき、わたくしはクダリを我が家に呼びました。クダリの家にはなまえが居ますから。
「なに?なまえを家に残してるからはやくね」

「そうですね。では」

ドアの近く、少し時計を気にするクダリを前に座ります。そんなわたくしを見ているクダリは少し焦ったような、引いたような、化け物を見るような目をしていました。

「お嬢さんをわたくしにください」

生まれて初めてクダリに土下座を致しました。

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