shapeshifter


「以来、幽霊列車を見ることはありません」
「それは良かったですね」
「ええ、貴女様には感謝しております」
「仕事だからね」
頭を下げようとするわたくしを制すなまえさま。クダリは彼女のことを性格が悪いなどと評しますが、やはりわたくしはクダリの恋人と勘違いしたあの一件のときと同じように、素敵な方だと思ってしまうのです。これは恋情ではありませんが、好意的に思うのは彼女がクダリを助けたことが一番の切欠であると自分でも理解していた。自らではどうにもならなかったことをいとも簡単に成し遂げた彼女に対して、わたくしは。
「なまえさま、今日はどちらへ?」
「ホドモエに」
「そうですか」
「ノボリさん、もしかしてゴーストタイプ連れてます?」
なまえさまはわたくしの方を少し不思議そうに見て尋ねられました。
「えっ?ええ、確かにシャンデラとランプラーが今手持ちにいますが」
なぜわかったのでしょう。わたくしのそんな疑問に気付かれたなまえさまは少し含みのある笑みを浮かべました。
「何かあったら相談してください。今回はタダでいいですから!」
なまえさまはそのまま、改札を抜けてホームへ向かわれました。



実際わたくしに可笑しなことが起こっていました。ええ、すでに。
その可笑しなこと、というのが消したはずの灯りがいつの間にか点いているというものでした。
自室や執務室。ここまでなら消し忘れということもある。ただ、廊下の切れた電球がついたり、街頭がまだ明るいのについているのはどうにも偶然と呼ぶには違和感がある。
「害はありませんが、やはり」
不思議なものです。
理由を知りたいと思うことは止められませんでした。
「なまえさま、お待ちください!」
ホドモエタウン帰りのなまえさまはわたくしに呼び止められ、ニヤリと笑いました。
「あら、なんですか?」
意地悪い顔のなまえさまは予想が当たったことが嬉しそうです。
「お時間よろしいですか?」
「ええ!お任せくださいな」



「明かりですか」
「ええ、先程案内した時もこの部屋の電気、点いていたでしょう?」
「はー、そういうことですか。地球に優しくない施設だと思ったら勝手に点いているんですね」
顎に指を当てて、ふむふむと頷くなまえさま。既に結論は出ているような反応でした。
「なまえさまは総べてお分かりで?」
「いいえ、そんな、神様みたいなことできませんよ」
「はあ」
わたくしの淹れたコーヒーを片手になまえさまは笑いました。いつもはわたくしが言うのもあれですが、あまり笑わない方だと思っておりました。
「あー、でもこれは簡単です。ノボリさん、きっとやみのいしお持ちでしょう?」
「……あっ、何故そのことを?」
わたくしは先日手に入れた真っ黒の石のことを思い出し、なまえさまを見つめ返します。
「お連れのランプラー、元々野生ですよね。ちょっとモンスターボール出してもらっても?」
「え、ええ、確かにそうですが」
モンスターボールを机の上に置きながら答えたわたくしになまえさまは本当に柔らかな笑みを浮かべ、喋りだしました。
「きっと、野生のその子の仲間ですよ。
私の知り合いにもシャンデラを使っている奴がいましてね、確かそいつから似たような話を聞かされました」
「……つまり、これは野生のポケモンたちの仕業ということですか」
確かに、明かりというのもヒトモシたちならあり得る。
「まあ、そういうことですね。ああ、でも怒らないであげてくださいね。彼らなりのお祝いなんで」
「お祝い、ですか?」
悪戯だと思っていましたが、お祝いというその言葉にわたくしは戸惑いました。
「そのランプラーが進化するのをおめでとうって、祝っているです。んー、そうですねぇ、花道でしょうか」
立ち上がったなまえさまは、わたくしのモンスターボールのボタンを押しました。
「旅立った仲間の進化とこれからの将来に幸あれという感じでしょうかね」
出てきたランプラーは嬉しそうにくるくる回る。ああ、ここ最近の彼女の行動はそういうことだったのか。嬉しそう、点いたランプや電気に寄ってはくるくると踊るように動いていた。
「嬉しいの?」
ランプラーの手を取るなまえさまが子供に聞くように笑う。ランプラーもそれに答えるに楽しそうに鳴いている。
「そっ、良かったわね」
ランプラーに向けた彼女の笑顔に目を奪われた。首を振り、なまえに頭を下げる。
「ありがとうございます、なまえさま」
「何もしてませんよ、私」
「いいえ、わたくしはもしかすればこのお祝いを悪戯として片付けてしまっていたかもしれません。あなたさまのおかげでございます」
なまえさまは困ったように、苦笑いをする。
「照れますね、そうやってはっきりお礼を言われると」
「というのは?」
「まあ、仕事上どうも毛嫌いされるんですよね、幽霊退治とか生業にしていると。そうじゃなくても、成果はあまり目に見えませんからね……お礼は渋られたり、支払いを渋られたり」
肩を竦めたなまえさまの少し達観したような表情に、それがいつもの面倒臭そうな表情の所以かと想像してしまいます。
「まあいいですけどね」
そんななまえさまにわたくしは何かすべきなのではないかと、この自分の感謝の気持ちを伝えなくてはと口を開きます。
「なにかわたくしにできることは、ありませんか?」
「え?あ、もしかしてお礼とかですか?いや別にそれをして欲しくて今の話をしたわけじゃ」
「いいえ、わたくしが、あなたさまにお礼をしたいのです。そうでなくてはわたくしの気が済みません」
「ははーん、さてはノボリさんあなた面倒くさい人ですね。んー、どうしましょうかね」
「も、申し訳ございません」
謝るわたくしを見て、何か思いついたなまえさま。
「進化はいつの予定ですか?」
「そうですね……今週末のくらいでしょうか」
ランプラーをちらりと一瞥したなまえさまがわたくしを真っ直ぐ見ている。わたくしはデスクの引き出しの中にある深い黒色の石を思い出しながら答える。急かすものではないだろうとランプラーにはまだ伝えていなかったが、こんな形で伝わっていたとは。
「じゃあそれ、立ち合わせてください」
「そ、それでよろしいのですか?」
「ええ、まあ」
あっけからんと答えるなまえさまに釈然としない。わたくしのその様子にめんどくさそうななまえさま。
「んー私の仕事的にゴーストタイプの進化に立ち会うことって必要なことなんですって」
「そう、でしょうけども」
「あー、えーと」
食い下がるのは逆に迷惑なのだろうと察しましたが、しかし先ほどの話を聞いたあとでは仕方がないだろうと、自分に言い聞かせます。なまえさまを見返せば、にたあと悪戯を思いついたあくタイプのような目をしました。
「私のこと、なまえと呼んでください。そっちの方が慣れてるんです。少なくとも『さま』より」
「は、はあ」
「というか実は貴方にそっくりの人にはもっと雑に呼ばれてたんで少し違和感が」
そっくり、雑……クダリ、ではない。なまえさまの言葉でわたくしの頭の中にひとり、思い当たる人物が。
「なまえさま」
「なまえですけど」
にやりと笑うなまえ。……。
「なまえ、貴女、イッシュの前はどちらに?」
「ユノヴァです」
嗚呼つまり、そういうことですか。その例のシャンデラ使いというのも。
「……インゴですか」
「正解です」
その顔だとそっくりですね、と続けたなまえ。ええ、そうでしょうね。似ているといわれたわたくしの今の気持ちは如実に表れているでしょうから。

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