片道列車に乗らないで3


「貴方が見たのが25時36分。もうすぐね」
なまえが僕の前に現れた時、隣にはこの前のヨノワールがいた。軽いトラウマになっているみたいで僕がびくっと震える姿に不気味な笑みを浮かべて来た。なまえかヨノワールか、どちらとは言わないけど。
「さて、ヨノワール。迷子のニャースちゃんを出してあげなさい」
ぱかっと体の口みたいな部分が開いて、中から光るおにびみたいなものが出てきた。なまえはそのおにびに近づいて、優しそうな笑みでこう言った。
「お迎えよ」
「え?」
僕が急いで路線の方を振り向けば、そこには既に幽霊列車が到着していた。
「ほら、行きなさい」
なまえがその光を押すような素振りをすると、電車の中に入ったその光は小さい女の子になった。
「え?」
その子は今日迷子センターで見た女の子だった。
僕のぽかんと開いた口を指差してけたけた笑うなまえにそのふたごの女の子は手を振って、その電車の扉は閉まる。
「あの子もふたごなんだって」
電車が走り出す。風が吹く。
「え?」
「ねえ、クダリ。あの子は電車に乗らなきゃダメだったの」
なまえの髪が風に靡く。その瞬間僕はなまえの腕を掴んだ。
なまえは僕をきょとんとした目で見てくる。
僕も自分がなにをしているのかとびっくりしてしまった。
「……似てるね」
「え?」
「わたしの知ってるやつにすごい似てる」
欠伸をしたなまえは、腕を掴んでいる僕の手を握りなおすと前回の時に行った応接室に引っ張っていく。
「あの子ね、先にお姉さんが死んだんだって。産まれる時にね」
「そ、なんだ」
「うん、それで、お姉さんがお迎えに来るのを待ってたらしいわ」
「あの子、死んでたんだね」
「そうね、ちょっと前にギアステーションの前で事故にあったらしいわ。自分でも気づいてたのねきっと。いろいろ話してくれたわ」
きっとお姉さんと幸いの旅に出たのね。戻ってこられるわけではないけれど。
なまえはいつもの面倒くさそうリアリストぶった表情じゃなくて、優しそうな柔らかな笑顔でロマンティックなことを言う。
「なまえ、似合わないね」
「そう、じゃあやめるわ」
切り替わるなまえの表情はさっきとうって変わって、いつも通りの面倒くさそうな表情に戻る。
「なまえ?」
僕、今日、というか昨日から驚いてばかりだなあ。なんて他人事みたいに思う。
「あれは彼女のお迎え。きっと明日からは現れない。でもね、あれが本当にお姉さんなのかも、あれが彼女のための迎えなのか、お姉さんのための迎えなのかさえ分からない。もしかしたら、お姉さんがあの子を恨んでいたって私にも貴方にも分からないわ。よかったわよね、分別のあるお姉さんで。私か貴方が連れて行かれたかもしれないし」
「……あのね、怒ってる?」
似合わないって言ったことが気に障ったのか、少し早口で怖いことを言う。
「言ったでしょ、私はアフターケアも完璧なのよ。ああやって美談で終わらせるとウケがいいのよね」
あっけからんと言い放つなまえが薄ら笑いを浮かべている。
「怒ってるよね?」
「さあね……あ、今度請求書持ってくるわ」
なまえは立ち上がると応接室を出て行った。
「片割れの幸せを望まない子なんていないと思うよ」
閉じられたドアから足音が遠ざかっていく。仏頂面の兄のことを思い出しながら僕はそう思った。

戻る


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -