おはようから天国まで


少々メタい。




――次、ライモン中央駅。ライモン中央駅。
アナウンスが聞こえて、私はゆっくり目を開ける。
久しぶりのイッシュ、久しぶりのライモン。
腰についている、シャンデラやバンギラスたちもずいぶん待たせてしまったなあ、なんてしみじみと思う。
止まった電車の出入り口付近に立つ。それから懐かしいライモンの地を踏みしめるように電車を降りた。
そこはまるで、ゴーストタウン、そんな単語を思い出させるような有様だった。
「うそ」
寂れた看板は「ライモン中央駅」と、確かに私が行きたいところだと、私が行きたかったところだと告げている。
それなのに、なんで、こんなに……。電車は立ち尽くしていた私を置いて走っていく。
それを追って振り向けば、綺麗に塗られていた壁の黒ずみがひどい。雨水のせいがもれているのか、腐っている部分も見えるし、コケが生えてるとこもある。まるで侵食されているみたいな汚さはひどく目に付いた。
とりあえず踏み出した足は剥がれた黄色の点字ブロックに引っ掛かり、よろけてしまう。
こんなことありえなかった。だっていつも、整備をしている鉄道員さんたちがいたはずで。
「おはようさん」って言ってくれるコガネ弁の鉄道員さんとか、片言で「イッテラッシャイ」って言ってくれた鉄道員さんがいた。それなのに。
辺りを見回しても人のいないホームはどうしようもなく不気味で、怖くなってくる。
廃れたホームの端っこの自販機がやけにぴかぴか光るのも、腐った木のベンチも、怖くて怖くて仕方がない。
ごくっと息を飲んだ私は夢中で階段を駆け上がる。
エスカレーターは止まっていて、登っていくのが気持ち悪い。
登った先には改札があったけど、機械は動いてない。どころか、いくつかは壊れていて、根元から横に倒れている。
窓口はシャッターが途中まで降りていて、覗くのは怖いけど見える範囲に人はいない。
改札の奥には外からの光が見える。少し安心する。
光が差し込むところには植物が繁っていて、あまり通りたくないなあなんて思ってしまった。通らないわけには行かないけれど。
少し余裕が出来た。
辺りを見回せば、さっきのホームとかわらないくらい汚い。
ぎぃ、という音が聞こえた。
黄色の看板のほう。……あそこはたしか。
ゆっくり、おそるおそる、黄色の看板のホーム。マルチトレインの方に。
あ。
そこには特徴的なコートの後ろ姿。二人重なって見える。そうだ、サブウェイマスター。
ギアステーションのバトルサブウェイに欠かせない、二人の車掌さん。
手前に見えるのは黒色だからきっとノボリさん、奥の人はクダリさん。
私はやっと見つけた知り合いに安堵して、走り寄る。
「よかった、よかった!」
ぜえはあと、膝に手をついて息を整えた私がやっと人に会えました!って言おうと顔を上げた。
くるりと振り向いたノボリさんのはずのその人は、半分顔がなかった。
「ひぇっ!」
声になってないような私の悲鳴だけが、構内に木霊する。
歯車だらけの顔と、鉄みたいな色の目玉が私を見る。
「あっれー?もしかしてその声はなまえ?」
奥から愉快そうな声が聞こえて、見ればそこには普通の人の顔をしたクダリさんがいる。
「あっ、ぁ、くだ、り、さっ」
私の焦った声にクダリさんはうれしそうに笑っ……え?
クダリさんの頭がずるりと横に落ちる。
「――っ」
仰け反る私に、落ちた首が言う。繋がったコードがこの人が生き物じゃないと教えてくれる。
「ごめんね、落としちゃった」
後ずさろうと手を後ろに付こうとしたら、その手が、手前のノボリさんのコートを着た機械の手みたいなものに掴まれる。
人の手を模しているそれの手袋越しの冷たさに鳥肌立つ。
「……と…………」
ぎぃぎぃと音を立て、顔の半分欠けた口の部分が動く。
「あ……で………………」
ぎぃいいといやな音を立てる口を今すぐ閉じて、その手を離してほしい。
私は振りほどこうと手を引く。
ぐらついた、その機械は私のほうに落ちてくる。
目を瞑って衝撃を待つ。

「お待ちしておりました」





暗転




「……さ……」
だれ?
「なまえさま!」
ばっと目を開ければ、目の前にはノボリさん。
「え?」
気の抜けた私の声に、すこし眉を寄せている。
「ライモン中央駅に到着いたしました。あまり、夜更かしは感心致しません」
「あ、えっと、ごめんなさい」
「よろしい、ではまたのご乗車お待ちしております」
私の謝罪に口元をすこし緩めたノボリさんは少しだけ頭を下げる。
「はい、また来ますね」
ホームに降りた私を見送るノボリさんに手を振ろうとしたとき、右手に何かを持っていることに気づいて、左手で手を振る。
電車が走り出したのを見て、私は右手の中にあるものを見る。
「歯車?」
言った後でなんだが、歯車というよりはなにかの部品だった、少し指みたいだな、なんて少し気味悪いことを思いついてから、自分の頬に涙が伝っていることに気づく。
さっき見ていた夢は、なんだったんだろう。


―――――――――

補足の説明としては前回のレポートからずっと放置していたバトルサブウェイと、
主人公の復帰によって元に戻った世界だと、私の中でなっています。
ゆめじゃなかったんですよって。


戻る


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -