片道列車に乗らないで


「あ、どーも」
あれから僕らから巻き上げた報酬で一ヶ月のフリーパスを購入したらしく、ほぼ毎日の割合でホームで顔を合わせている。
「なまえおはよう、今日はどこ行くの?」
億劫な、めんどくさそうな表情をよくしているくせにフットワークの軽さは異常なくらいで、このギアステーションを利用してはイッシュ中を散策してると聞く。
あれから少し話して、『さん付け』やめてください、と少し砕けた口調で言われて僕も、と少し緊張気味に言ったのは記憶に新しい。
「今日は、ソウリュウだね」
「シリンダーブリッジに行くなら暴走族いるかもしれないから気を付けてね」
「へえ」
「下には地下鉄が通ってるから、僕もいるかもね」
「それはまた」
幽霊騒動でも起きそうね。なんて続けるなまえに冗談でもやめてって叱る。
「いやいや。それでもね夏っていうのはそういうありえなくもない感じなんだよ。
涼を楽しむためだけに夏に心霊番組やお化け屋敷があるわけじゃない。こっちにあるかは知らないけど、カントーのほうだとお盆なんてものもあってね。
夏っていうのはそういうのが出やすいって言うでしょ?」
「季節でお化けがでたりするわけ?」
「さあ、そんなのお化けに聞きなさい。憑かれたことあるなら話せるんじゃない?」
「遠慮しとくよ」
「うん、遠慮しときなよ。死ねばわかることかもしれないし」
なまえはこの縁起でもない会話を終わらせ、「じゃあね」と混雑しているホームへと消えて行った。
「……まさかね」
彼女は気づいているのかもしれない。
この、ギアステーションでそういう事件が起きていることを。



数日前からこのギアステーションで異変が起こっている。
いきなりATOが誤作動を起こし急停車。
急停車の際に電車を見たというお客様。
運行していないはずの真夜中に電車を見る鉄道員。
少し前に起こったロケット団の幽霊列車騒ぎがあったので、今回もそういう、人為的なものだと思っていた。
そして昨日。僕も見た。
真夜中に停車をし、狂ったようにドアを開け閉めする電車を。
僕がその事実に驚いているうちに電車はがたんごとんと発車したかと思えば数メートルもしないうちに、霧か何かのように跡形もなく消えてしまったのだ。


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