あんまりそわそわしないで!


「でね!それでクラウドがさあ」
隣のクダリと喋りながら、ライモンの大通りを歩く。
クダリの語る話はいつもおもしろおかしく語られて他のことが目に入らず、躓いてしまったりする。その度にクダリがそっと支えてくれて私はきゅんとしてしまう。
ジョインアベニューに入れば、たくさんのお店が。あれって……。
ジムリーダーのシズイさんだ。服着てる。
筋肉質だと思ってたけど、服着てると凄いすらっとしてスタイリッシュでかっこいいなあ。というか水着以外の服きてるとこ初めて見た。
方言男子萌え。シズイさんに『おはん!』とか呼ばれたい。海の男やばい。
『どうしたっと?気分でも悪いんか』
「大丈夫?なまえ?」
クダリとシズイさんがダブってはっとする。
「あー、なんでもない」
まあクダリの方がかっこいいんだけど。
喋り方も片言かわいいし!
少し怪訝そうなクダリがまた喋り始める。
「あ」
私たちを追い越すように三つの影が競うように歩いて?走って?行く。
「このコーンが一番先です」
「んだとおおお!俺が!一番だ!!」
「二人とも待ってよー」
サンヨウのジムリーダーさん達だ。
あ、でも今はレストランの経営だけなんだっけ?
コーンくんはクールでかっこいいし、ポッドくんは熱くて元気、デントくんはおっとりしてて優しいんだよね。
またサンヨウシティ行ってバトルしたいなあ。
『あなたもポケモンバトルと同じように三人揃ってなんて言わせれませんからね』
『なに1人で抜け駆けしてんだよ!デント!』
『二人とも黙りなさい。このコーンこそなまえさんに相応しいんです』
きゃー!やだかっこいい!!
「なまえー?聞いてる?」
クダリの声にはっとする。
「う、うん。聞いてる聞いてる」
「そう?ならいいんだけど」
クダリにぎゅっと握られた手が引かれる。
「クダリさんじゃないですか」
コガネ弁独特のイントネーションが聞こえ、クダリと私が振り向けば鉄道員の服を着たクダリさんの部下らしき人がいた。
「彼女さんです?」
「うん、なまえっていうの。こっちはクラウド、ぼくの部下」
クダリにちょんと合図を受けて、はっとして頭を下げる。
「なまえっていいます、クダリがいつもお世話になってます」
「こっちこそお世話になってます」
独特のイントネーション。
こ、これは……方言男子!!
「買い物です?」
「うん、そうだよークラウドも?」
「きのみ足りんようなったちゅうんで仕方なく」
「あ、今日仕事だったもんね、だからその格好」
このさりげなく出てしまってる方言の感じ、あー……やばいかも。
親しくなったら方言で叱られたりするんだきっと。
『せやから、他の男と一緒になんでおるんか聞いとんや』
「あ、はよ戻れって言われてるんで。彼女さんもデートの邪魔してすんませんでした」
あ、行ってしまった……。
「なまえー?ぼーっとし過ぎ、クラウドちょっと不思議そうな顔してた」
「ごめん……」
「いいよ、行こっ」
にこっと笑うクダリ。うん、この笑顔に勝るものはないよね。
私の手を握って、少し小走りで進んでいくクダリ。
「あ、電気タイプ」
その声でぴたっと止まったクダリにどんっと当たってしまう。
クダリの視線の先にはテレビがあって、そこには……確かレントラー。
「かっこいい」
「だよね!」
「クダリは本当に電気タイプ好きだよね」
「うん!」
レントラーからトレーナーにカメラが向く。
『シンオウ地方最後の難関、輝きしびれさせるスター!ナギサシティジムリーダー!デンジ!!』
「かっこいい」
ぽろっと口から漏れてしまうくらいその姿はかっこよくて。
ぎらぎらとした瞳が気怠げにカメラに落とされて、そのぎらぎらが消える。アナウンサーの声が聞こえて、それに答えていく。
「なまえ」
またトリップしそうになった脳みそをクダリの声が制止する。
「なに考えてるの」
とげとげとした雰囲気を纏った声が私を責める。この声のトーンは……怒ってる。多分だけど。
「さっきから、他の男ばっか見てる」
背中にじんわりと伝わる温もりに抱きしめられていることに気付いた。
「え」
「今僕とデートしてるのに、ほかの男なんて見ないで」
振り向こうとした途端に唇が重なって、隙間からクダリの舌が入ってくる。そのまま体を回転させられ抱き込まれる。
クダリの肩越しに少しギョッとしたクラウドさんが見える。それから他のお客さんも。
苦しい。とんとんと背中を叩いて解放してと頼んでも一向に離さないクダリ。
恥ずかしい、けど、少しの優越感が滲んでくる。
満足したのかばっと肩を掴まれ体ごと離される。
「あんまりそわそわしないで!」
お前は何処ぞの鬼型宇宙人か!
息も切れ切れの私はツッコミを口から出すことなく、怒りと息切れと照れで顔を赤くしたクダリに抱きついた。
あなたが誰より一番だよ。
H26.07.29

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