本当は何歳ですか?


みんなが机に項垂れたり、椅子からずり落ちたり、鬼気迫る形相で書類に向かってる。ここは戦場だ。
立ち上がった死にそうな私もすでに足取りがふらふらだ。
「買い出し行きます、いるもの、ありますかー」
返事はない、代わりにぶつぶつとなにか呪文が死にかけたシンゲンから聞こえてくる。
「いってきます」
勿論その言葉にも返事はなかった。

「重い……」
ハブネーク印の栄養ドリンクを人数分に10秒メシとか死ぬほど買ったその分の重さが私の右腕の一点に掛かっている。
「……重いーー!」
重さと疲れで駄々っ子みたいに叫ぶ。
食い込むビニール袋が確実に私の血液の流れを堰き止めているのを感じながら、休憩室の前を通って、死屍累々の事務室へ急ごうと足を速めた。ところ、ばしっと掴まれてしまった。そのまま、休憩室まで引っ張り込まれる。
「きゃ、もがっ」
悲鳴を上げかけた私の口は白い手袋に覆われた。
「お静かに、なまえ」
「ふあ!?」
耳元で呟かれた声にぞわっとして、身体が跳ねる。そのおかげで混乱していた脳が犯人に気づいて落ち着いてくれたけど。
こんななか荷物を落とさない私に我ながら感心していたりする。
「ノボリさん!!」
「なんですか?」
「いや、なんですか?じゃないですよ!これセクハラみたいなものですよ!!」
喰ってかかればいつもの無表情が私を見てくる。というか目が死んでますけどこの上司、大丈夫か。
「大丈夫ですよ、ああ、なまえ。お願いがあるんですけど」
「はあ、なんですか」
「わたくし眠いので添い寝してくださいまし」
「だが断る」
私は顔に似合わずなかなか巫山戯たジョークを言う上司を一喝して、この重石という名の栄養ドリンク達を届けるために歩き出した。
「私は今からこれを届けるという任務があるんですから」
が、ぱしっと荷物を持ってた腕を掴まれ私の体が傾く。
ノボリさんが私も荷物も受け止めようと手を伸ばす。すかっといい音がした気がする。
ノボリさんは辛うじて私を受け止めてくれたが、荷物をとり逃した。
「あああああああ!!!」
私の悲鳴と共に派手に音を立てた栄養ドリンク達はあのなんとも言えない色を白い床に撒き散らした。
「ノボリさん!なんてことを!」
「……もう、任務はなくなりましたね」
少し気まずそうに自分に言い聞かせるように私を回収したノボリさん。
そのまま優しく私を押し倒す。っていやいやいやいやいや!
「ちょっと離してください!」
「だが断わります」
「真似すんな!」
てか真似になるのかコレ。私を助けるかのようにインカムがノボリさんの出番を伝えている。
「あ、ほら、出番ですよ!ノボリさん、ポケモンバトルです!行きましょう!ほら!」
「ええ、バトルです。夜のプロレスですけど」
うわ、ねーよ。
「さて、なまえの次の目的地ですが、行き先は天国。極楽浄土に連れて行って差し上げます。勝利もしくは敗北どちらに向かうのか!」
「勝利も敗北もあるわけないだろ!」
「ではご一緒に、出発進行ーッ!!」






「起きてください、お客様」
「……ん、ん」
ま、眩し……。
「お目覚めになりましたか?」
「あ、はい、おはようございます」
こちらを見下ろす黒い何かに焦点を合わせようと、頑張っている脳みそを何かの奥の光がちかちか刺激している。
焦点がやっとあってきたと思えば、まさかそんな。えらい美人がそこにいた。
「へ、あ?」
がばっと起き上がれば、私の方にかかっていたものがずり落ちる。ベンチに寝かされていたらしい、固いし、冷たい。
私はとりあえず、他にもずり落ちていた眼鏡をぐいっと押し上げてその人を見上げる。
「……駅員さん?」
「はい、こんばんは」
「あ、はいこんばんは」
頭を下げられ、下げ返してしまう。
「申し訳ありませんが、起きられませんでしたのでわたくしが降ろさせていただきました」
自分のしたことが私が食って掛かるとやばいことだと気付いているのだろう、その……おじさん?おにいさんは、唇を一文字に閉じてそんなことを言う。綺麗な人なんでお兄さんということにする。
「……はあ、すみません」
「普通は、お声掛けをさせていただく時点で起きていただくことが多いので……」
「……!!」
自分のしでかしたことをやっと理解する。
おいおいおい、私なにやってんの、まさかそんな!こんな美人駅員さんにふざけた寝顔を晒して、あまつさえその駅員さんに自分を運ばせて、あんな気まずそうな顔をさせているなんて!!
「す、すみません!!」
「あ、謝らないでくださいまし!こちらの都合で、勝手にご乗車いただいていますから。こちらはお客様の荷物でよろしかったでしょうか」
「……へ?あ、はい!!」
駅員さんが私に見せてきたのは、スクール用のそこそこ大きなバックだ。
「す、すみません!!」
そのバックを受け取って、抱き寄せる。やっと落ち着いて、駅員さんを見上げれば、やっぱり美人だ。
さっきも美声に起こされたなあなんて思ってしまう私はきっとこの駅員さんに寝顔を晒したりしたおかげで混乱状態なんだろう。でもなきゃそんな……。あ、駅員さん懐中時計見てる。……か、かっこいい……。
ごくんと唾を飲み込んでしまうレベルのかっこよさに私は戦いてしまう。
「こちらはライモン中央駅でございます。お客様はどの駅に……」
ベンチに座る私に高さを合わせてくれたのか、屈んだ駅員さんは私に聞いてきた。あ、合わせてくれたんじゃなくて子ども扱いされてるんじゃ……。
「あ、え……戻ってきちゃった……?」
……終電だもんね、戻ってきててもおかしくないわ。
「はあ、といいますと?」
「あ、の、えっとソウリュウです」
「……これはまた」
「すいません。始発、いつですかね」
「4時29分になります。現在が1時36分になりますから約三時間といったところでしょうか」
「……ああー、やっちゃったかあ」
「お客様は定期券をご利用のようですからこの場合は乗り越し運賃などは大丈夫なんですが、これからどうされるんでしょうか」
「ずっとここにいちゃいけないですよね、えっと、カラオケとか、ファミレスとか行き……」
「どうかされましたか?」
「財布家に忘れてたの忘れてました、あはは。……仕方ないんで、外で待ってます、ありがとうございました」
頭を下げて立ち上がろうとした私の腕を駅員さんが掴んで止める。
「……あ、あの?」
「お客様、いけません」
「えっと」
「お客様、いいですか、学生がこんな時間まで外出していることも含め、これから始発が出るまで外にでているなどそんな!危ないでしょう、まさかそんな恰好で寒空の下、……ごほ」
いきなり咽た駅員さんにこんこんと説教が続くと思っていたために下げていた顔をあげる。
「大丈夫ですか」
「ええ、大丈夫です、大声上げすぎました」
「はあ」
なかなかお父さんみたいな人だな。もしかしたらおじさんなのかもしれない。
「わたくしが言いたいのはですね、嫁入り前の女性が一人でこんな遅くに外をうろつくなんてダメですってことなんです」
「あ、はい……」
「ここにいてくださいまし、わたくしもここにいますので」
「え、あ、はあ」
凄い気迫につい頷いてしまったけど、良かったのだろうか。
「というか!済みません!!!」
ばっと立ち上がった私に驚いたらしい、駅員さんはぎょっとしている。
「これ、駅員さんの……」
私にかかっていた何かというのはコートだった。もちろん私のでは全然ない。
これ見たことある、ライモンのバトルサブウェイの責任者みたいな人の服だ。
「いえ、構いません。どうぞそのまま」
「で、でも!!」
「お客様が風邪を召されてしまうと大変ですから」
すこしだけ表情を緩めたように見えたその人は私にもう一度コートを掛ける。
「いえ、あの、大丈夫です」
「分かりました」
私も立ち上がる。そのまま、バックのちっさいポケットからライブキャスターを取り出せば、時計の針はもう2時を過ぎていた。
「……」
会話に困ってしまう。こんなおじさん?くらいの人となんてあんまり話さないし、美人だしで私は緊張で頭がこんがらがってしまう。
「……あの、本当にお寒くありませんか?」
私の顔ではなく、少し下のほうを見てきた駅員さんがそう言った。……私はその視線の先を知って急に恥ずかしくなる。
他意はなくてもセクハラみたいなものだ。
「……え、あ、だ、いじょぶです」
スカートを見ていたらしく、それはなんとなくはずかしい思いを私にさせる。そりゃ寒くないわけないけど、でもそんなじろじろ見られた嬉しいものじゃあ……。
「す、すみません。ただ……寒くないのかと、思いまして」
尻すぼみになっていく語尾に少しだけ笑う。
それから少々アレな駅員さんと少しおしゃべりをして始発を待った。
「あの、ありがとうございました。もう、大丈夫です」
四時を回ったのでそれを伝えて、お礼を言う。
「いえ、それでは」
去ってく背中はかっこよかったのに、その後すぐくしゃみをした駅員さん。
そのくしゃみも結構お父さんみたいでついつい笑ってしまった。





「っまーい!」
上唇をぺろっと舐めて、あっまいクリームを舐めとる。
「よく食べられますねえ」
ノボリさんはしげしげと私の前に広がる夢と砂糖の塊を見る。
「おいしいですよー」
「ええ、でしょうね」
見ているとこっちまで幸せになりそうなお顔をしていらっしゃいますから。と続けられて少し恥ずかしい気さえする。
膝をついて優しいまなざしをこちらに向けられ、恥ずかしさを先ほど買ってきたスイーツと一緒に飲み込む。
そんな私を少し笑ってノボリさんがずずずっと濃い目に淹れた緑茶を啜る。私が淹れたんだけどね。
「しかし、甘くないですか?」
少し心配そうな顔で私を見る。
「えーだから美味しいんじゃないですか」
「この前太るーとか言っていたのはどなたでしたっけ?」
「んなもの覚えてません」
きっぱりと答えたけど、少し心配になる。
というかデリカシーがないなあ、こういう時は触れないのがいい男ってもんでしょう。
「おやおや」
「ノボリさんこそときどき甘いもの食べたらどうです」
「食べてますよ、なまえさまのようにはいきませんけど」
「えー」
「わたくしはなまえのように若くないですから」
「……」
緑茶を飲んでいるのだって確かそういう意味があった。
胃に来るらしい、です。ノボリさん曰く。その細い身体のせいでしょうと、私は机で隠れているほっそい腰にじっとりと視線を送る。……あ、なんか、やばいかも。
「んー明日からダイエットします」
きょとんと私の方を見てくるノボリさん。
「……」
無言で立ち上がって私の隣に来る。
「の、のぼ」
薄い唇がゆっくり下りてくる。
「ひ、え」
キスされると思って目を閉じたら、口の端に生ぬるさを感じる。驚いて目を開ければ色気たっぷりに「美味しいですよ?」なんて。
「それからダイエットはいけませんね、いいですか」
「……ふぁ、はぃ……」
気の抜けた私の情けない声にそれこそ満足そうにノボリさんは笑った。

――――――

ぜんぶ別物です。考えていて、頭いっぱいになりました。
言うことがありえねーみたいなノボリさんと、お父さんみたいなノボリさん?と、胃が心配ならしいノボリさん。でしたー。
あとは、熟年夫婦とか、天然可愛い系おじさんノボリさん書きたいですね、難しいです。
二つ目とか子持ちだったら面白いですよね、好きですそういうの。

コウヤさんに捧げます。
あんな素敵なモノいただいたのに対して、駄作にもほどがあると思いますが、これが私の精一杯です。今は、これが精いっぱい(ルパン風)
どうかもらってください。……クーリングオフは受け付けます。商品交換だって受け付けます。
二個目勝手に学生設定にしてすみません。

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