06


昨日、ノボリさんとの遠慮やなにやらは取っ払えた。確かに、それはよかった。
でも選択を間違った感が否めないのはなぜだろうか。いや理由はわかってるけれども。


私が自室に眠りに来たところ、ノボリさんは既に起きていた。昨日まで彼が私が起こさない限り起きていたことは殆どなかった。昨日が初めてといっても過言ではないぐらい。
「どーしたんですか」
「なまえさま、あの……聞いていただけますか」
「……どーぞ」
私はノボリさんと並んでベッドに座ってる。心なしか前より近い。いや近すぎる、ほぼ0距離なんですが。
「今日シングルで負けてしまったのです」
「そっか」
「わたくし……」
「大丈夫だよ、ノボリさん強いよ」
私はスーパーでなんども負けてるしね。笑い事ではないが笑い事のように言ってみる。たどり着けないことの方が多いぐらいだし、負けるたびに奇声を上げてもいる。
「ですが、今回負けたのは」
ごにょごにょと何か言ってるが、私には聞きとれない。体おっきいんだからゴニョニョってよりバクオングかドゴームでしょ。タイプ分からないで苦戦したことあったなあ。
「バクオング」
「え?」
「バクオング、最初地面タイプかなにか入ってると思ってた」
いきなり関係のないことを呟いた私にノボリさんが笑ってくる。
そうでございますね、なんて言ってきっと彼は思ったことないだろう。サブウェイマスターたる者そんなこともわからなくてどうします?なんて敬語繋がりで出てきてしまった。
ノボリさんはどや顔こそしないものの、そういうこと考えていておかしくないだろう、義務として。
そしてクダリさんはノボリさんが努力して覚えたそれを感覚で速攻で覚えてしまってるんだろう。会ったことないけど絶対そうだ。
ノボリさんの昨日の独白を思い出した私は、どうしようもなくなって肩を押し付けるようにタックルする。びくともしない、もやしなのに!!
「しかしなまえさまはよく他の地方のポケモンを知っていますね」
「うーん、割とちっちゃいころからしてたから。あ、ちっちゃいころはカントーが舞台だったのね」
「カントーですか」
「うん」
「遠いですね」
そうか、イッシュから見るとカントーは遠い位置にあるんだなあ。
ノボリさんは少し思案したように口元に手を置いて私に尋ねてくる。
「ではイッシュはどうでした」
「あ、観覧車いいね」
あの観覧車イベントはいい。Nははよトウトウに会いに行け。あとナツキさん最高、エリトレいいね。
ホワイトも2も女主人公でしたからなあ、ナツミさん来ちゃったからなあ……。
そういえばノボリさんの世界のイッシュはどのくらいの時間なのだろうか、ホワイトか2かそれ以外か。
「観覧車お好きなんですか」
「ええーうん」
間違ってないからいいかなあ、ナツキさんが好きなんだよ、あフユタ君もわりと好きだなあ。
「そうですか」
「あとは、そうだなヒウンアイス食べてみたいとか」
あ、バイバニラって美味しそうだよね。一口食べたい……。
「……なまえさまがもしわたくしの世界に来たなら私が案内しましょう」
「わーい、あでもそれはないといいけどねー」
「……」
ノボリさんが少し嫌そうな不満そうな顔をした気がした。しかし付き合いも長くない私では判別は不可能だったのだ。なんか悔しいよね。くすぐったらもしかしたら見られないくらい笑顔になってくれたりして。私くすぐるのはするのもされるのも苦手だけど。

「……わたくしのミスでイワパレスが」
私の思考中に思い出したのかまたゴニョニョになってるだと……!
「じゃあ帰ったらいっぱい撫でてあげてくださいね」
「……はい」
私の言葉に唇をかみしめながら絞り出すように返事をするノボリさん。全く持って大げさな人だ。
「じゃあ寝ますか?明日の朝撫でてあげる時間ができるように」
「そうですね……そういたしましょう」
私がいつも通りベッドの脇に寝ようとする。いい加減どうにかしないと風邪ひいちゃうなあと昨日、一昨日ぐらいには思っていたのだけれど、忘れてしまっていた。
ノボリさんはいつも2時ぐらいにはいつの間にか帰っていることが分かってからは、ノボリさんが帰ったベッドで寝ているのだけれど。
「なまえさま」
「なんですかー」
「あの、えっと、その……」
なんかこの人は、なんかこうクルんだよねー。
「一緒に」
あ、なんか嫌な予感がした。
「一緒に寝ませんか」
「無理」
「そんな!!」
ノボリさんが勇気を振り絞ったことはわかったけど、無理。
「何故ですか!?あなた様だってずっとそこでは寒くなるでしょう」
「そうですけど……」
あ、やばい。ベッドと暖まってぬくぬく体温なノボリさんが誘惑してくる。負けちゃダメだ。手ぇ広げんな、仮に一緒に寝ても反対向いて寝るんだよ!?
「あの、ですねえ」
「はい、なんでしょう?」
「私はノボリさんのように異性慣れしてないんです!!そ、そんな……ハードル高過ぎなんですよ!!」
こんなイケメンと寝られるか!!私が死んだらどうする!!
「わ、私女性に慣れてるわけでは……」
「じゃあ私に寝ようとか言わないでください、いかがわしいですよ!!」
「そんなわたくしはそんなつもりで」
ノボリさんのしょぼーんな雰囲気が私に罪悪感を与えてくる。私のライフもうほぼ0だよ。
「なまえさま」
「……く」



負けました。つまり、一緒に寝た。私の意志の弱さは如何なものかと思うよ。
ノボリさんとはきっちり反対を向いて寝させてもらった。さすが私。しかし、ノボリさんほんとに寝てます?
ギチギチに抱きしめられてる私。いやこれは何か出る。私の大切ななにかがボロッと出そう。もっというとバイオハザード的なグロさのなにかが出る。
最初はもぞもぞとして私の方に寄ってきて私もあんまり気にしてなかったのだが、手が私に掛けられ、ぎゅうと抱きしめられた。
ここら辺で「ノボリさん?」と声を掛けてみた。
「すみません」
と吐息のように漏れたノボリさんの声。仕方ないなあ、なんて思っちゃうくらいには私はノボリさんのことが好きなようだ。

しかし、恥ずかしいなこの体勢。

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