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※ヒロインがノボリさんの姪。
※ポケモン界でも三親等内結婚はダメ?なのかな?
「ノボリさん!」
私の声に父のコートとお揃いの黒いコートがふわりと広がって振り向いた。
それが嬉しくて、笑顔になる。
叔父さんというには若々しい私の叔父に駆け寄れば、弟の娘である私にもとってもやさしくしてくれる。
「お仕事、お疲れ様です」
頭を下げれば、そっと大きな手が私の頭を撫でる。
「ありがとうございます」
やさしい手で撫でられると嬉しく、でも子ども扱いだからそっと身を引いてその手から離れる。
「もう、私16歳ですよ!ちゃんとした大人です」
「そう、でしたね」
お父さんとは違って、本当に大人っぽいノボリさんは少しまぶしそうな顔で頷いた。ノボリ叔父さんっていうのは流石に……と思って、ノボリさんだ。
「なまえは今日が誕生日でしたね」
「お、ぼえててくれたんだ」
嬉しい。すっごい嬉しい!
ノボリさんの手を取ってにこにこ笑う。
「ありがとう!ノボリさん!!」
「なまえ。今日クダリは夜勤でしたね」
あ、そっかお父さん、お仕事がんばってくれてるんだ。
今朝、夜は会えないかもしれないからって、ランニングシューズとか旅に必要なものをくれた。
なんか出て行けって言われてるかと思ってしまった私がいた。勿論そんなことなくて、多分お父さんは私が旅をしたがってたことを覚えていたんだ。ずっと昔。お母さんが生きてた頃だけど。
掴んでいた手を離す。項垂れた手がそっと落ちる。
そんな私を見かねたのか、ノボリさんがびっくりするようなことを言う。
「なまえ、どうですか。今夜わたくしとデートしませんか」
「え?」
ノボリさんはこんな冗談言う人じゃない。
……ぽかんって私が見上げれば、いつものやさしい笑みがあった。
ごくん、とつばを飲んだ私の頭を撫でようとしたノボリさんの手は止まる。あ、私がやめてって言ったから。戻っていった手を差し出して、もう一度。
「どうですか?」
「い、いく」
「では、お手を」
差し出した手を掴めば、そっと引っ張られる。
連れて行かれたのは高級そうなレストラン。しかも仕切られてて実質個室。
「ノボリさん、私、この服で……」
「かまいませんよ、貴女が気にすると思ったのでこちらにしたんですから」
ライモンの夜景が見える。観覧車はピカチュウのイルミネーションで、くるくる回っている。
ギアステーションも見える。
「あ」
お父さんもあそこにいるだろうか。
「クダリですか?」
「あっ、えっと……はい」
「すみません。本当ならわたくしがクダリに代わって仕事をしてあげるべきでした。
そうすれば貴女は親子水入らずで過ごせたのに」
「そ、そんな、いいんですよ!」
そう、お父さんは私を避けてるから。お母さんを思い出すから。いつも泣きそうな顔をする。
「お父さん、私のこと見るとお母さん思い出しちゃうから」
今日も誕生日プレゼントを渡すお父さんは少し目を逸らした。
それにお父さんは私の誕生日が来るのがいやなのかもしれない。
私の誕生日を祝うときはいつも、険しい顔をしてる。
きっとお母さんを思い出してる。多分。
「ええ、そうかもしれませんね」
「ひどい、そこはそんなことないよって言うところです」
「いいえ、事実ですからね。でも、貴女を愛してもいますよ」
どきん。
一瞬、ノボリさんが言ったのかってわかんなくなって体温が多分5度くらい上がった。
「お父様にはいくつ誕生日プレゼントをもらいましたか?」
「ひとつ、ですけど」
お父様なんてちょっとふざけたノボリさん。何の話だろう。
「クダリは、今日の誕生日プレゼントもう一つ準備していましたよ」
「え?お父さんが?」
「その様子ではもらえてないんですね」
「う、うん」
「アクセサリーです、これはお母様の分でしょうね」
「えっ、ほんと?……ですか?」
くすくす笑うノボリさん。
こんなによく笑う人だったんだ。
「ええ、もうなまえは大人ですからね」
ノボリさん越しの夜景の明かりがやけに目に沁みた。