ゴーストバスター


「兄さん」
白線の外側に立つノボリの姿を見て不安になるクダリ。堪らず掛けた声は思いのほか頼りなく揺れていた。
自分と同じ色の瞳がどこを見ているのか分からない。
「もうすぐ、電車きちゃうよ」
「……」
「白線の内側に入らないと」
ノボリがこっちを向いた。
「どちらが、内側なんでしょうね」
ぞくっとして答えることができなかった。
はっきり、こっちだと答えられなかった。
ばっとノボリの瞳に光が戻ると、いつも通りの表情に戻り呆気なく白線を超えた。
「さて、仕事に戻りましょうか」
「……うん」
がたんごとんと兄さんがいた場所の前を通り過ぎた電車に寒気がした。


人ならぬものがそこに、ノボリの中にいるような気がした。
時折本当にたまにだけど黒いもやもやみたいなのも見えた気がして怖かった。
それで僕はノボリには内緒で人を雇うことにした。
人に聞くわけにもいかずに自分で調べてみた結果、一人に連絡を取った。
仕事のせいで夜に仕事場に来てもらうことになって、あまり使われていない応接室に通して、やってきたのは真っ黒のコートを羽織った女性だった。
受け取った名刺には『ゴーストバスター なまえ』。……大丈夫かな。
「そういういかにもこの人で本当に大丈夫かなって表情を見るのは結構好きな方なんだけどね」
高圧的な態度のなまえさんは、向かいのソファーにもたれ掛かって足を組んで聞いてきた。
「んーで、何人に騙されたの」
「どういう意味かな」
「……」
きょとんとしたなまえさんは肩を揺らして笑う。
「いや、まさかよかったね、私としては何度か騙されている方が吹っかけやすいし良心的なことをわかってもらいやすいんだけど」
「吹っかけって」
「今回はすごく良心的な感じにしてあげる、一番最初に私を引き当てた貴方の幸運に免じてね」
じゃあちょっといろいろ見せてもらおうと思うんだけど、と言ってなまえさんは立ち上がろうとする。
「そのお兄さんに、知られたくないんだよね。どうやって調べようかしら」
「……それなんだけど、これからATOの点検の人間が入るからそれに紛れるってことじゃダメでしょうか」
「……はあ、まあそれでもいいです。お兄さん見れるなら。じゃあちょっと制服かっぱらいましょうか」
なまえさんのあんまりよくない台詞を聞いてしまう。僕は注意しようかどうしようか迷って言葉に困っていると、ドアが開く。えっ。
「クダリ、ここにいましたか」
兄さん!?
「ノボリ兄さん!?なんでここに!?」
「え、あ、えっと、なんででしょうか」
まただろうか。首を傾げて苦笑いを浮かべる兄さんに、隣のなまえさんが怪訝そうな表情をする。
「おや、こちらの方は……」
「え!あ、えっと」
「……」
なまえさんは何も言わなくて、ノボリ兄さんは思いついたような表情をした。
「もしや、恋人ですか」
「え、えええ!!?」
「えっと、そうです。……お兄さんでよろしかったですか」
ぱっと頬染めるなまえさん。え。
「はい、こんなところで逢引だなんてクダリもやりますね」
なまえさんはにこりと頷いてさっきまでのな上から目線を消し去って、人のよさそうな表情をして、兄さんと話している。逢引だなんてそんな!!
「あの、っすみません私、デートの日間違えって来ちゃったんです」
「おや、そうでしたか」
「お仕事中にすみませんでした」
「もう夜遅いですし、少しこちらでお待ちください。クダリ、今日の仕事はもうすぐ終わるでしょう」
「に、兄さん!」
「いいんですか、じゃあ……」
「かまいませんよ、ねえクダリ」
僕の方を見ているノボリの後ろでなまえさんが「いいから話し合わせろ」というオーラを出している。
「う、うん」
「ありがとう、クダリさん、お兄さん」
兄さんに笑いかけた彼女に、まあ、服をかっぱらってくる、とかよりは全然いいか。兄さんに嘘を吐くのは気が引けるけど仕方ない。兄さんのためにも。

戻る


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -