ハートの休日


月に一度の日曜日の夜は映画の日。なまえと一緒にレンタルビデオ屋、今となってはレンタルDVDの方が格段に多いし、ブルーレイの方が増えてきていると揚げ足を取るようになまえがぼやく。
「どれ見るの?」
「うんー、あ、あれ見たい」
「あー、ちょっと前言ってたよね」
「そうそう」
有名どこなランキングナンバーワンを指差すなまえ。
「これアクションだからバランスをとってファンタジーにする?」
「今日新作5本で1000円でしょ?映画漬けしよ、明日まで」
「起きていられるノ、なまえ?」
「努力するー」
馬鹿にしているのに気づいたらしくむっとして返事をしてくるけど、自信はないみたい。
「ンー、じゃあボクあれ見たい」
「えーホラー?」
「イイでしょ?」
「じゃあもうネズミーの新作も見ようよー」
「そういえばアレもう一度見たいナ」
「どれ?」
「アレ」
「旧作じゃん、しかもグロいよねそれ」
「マアマア」
「なんっていうかお国柄出てるよねそのグロさ、見たことないんだよねそれ」
「見たいけど怖かったんだよね」
「……時間なかったんだって」
「でも見たいんだからなまえってドMだよネー」
「うっせ、ばぁか」
そっぽ向かれちゃった。
むすっとして陳列されたDVDを眺めるなまえに合わせるように少ししゃがむ。
「ん?」
ボクに気づいて「なに?」って言おうとした口を塞ぐ。
「!?!!」
目を見開くなまえの表情を見れたから口を離して言ってたDVDを選んでいく。
「え、え、エメット!!」
「他の人のメーワクだから大声出さないのー」
「るさい!というかそれ借りるの……?」
「この際5本でも6本でもいいでしょ?」
「えー」
「怖いんだー?」
「べ、別に……」
「んー」




「借りたネー」
「借りたよー」
さりげなく手をなまえの手に重ねて握る。
なまえは全く気にしてなさそうにてくてくと家路を歩いている。
少ししてやっと手を繋いでいることに今更気づいたのかボクの手から振りほどこうとしているみたい。
離すわけないのにね。
ボクらは別に付き合ってない。なまえはボクのことをスキンシップ過多なチャラ男だと思ってるとボクにも言っていて、つまりこの恋はカナリ前途多難ならしいネ。
なまえ出会って好きになってから、他の子となんて遊んでさえいないけど前評判って言うの?ずっとそんなだったせいで告白は流されるし、キスやハグをしても少し照れては「勘違いしちゃだめだ」みたいなことを呟かれたり表情されちゃうとボクも辛い。
それでもここまで来れたから多分にミャクがないわけじゃない、はずなんだけどね。



「ネズミーぱねえわ」
ネズミーの新作に見入ってたなまえはふぅと息を吐きながら呟く。
「次なに見るー?」
「ボクが借りたやつでしょー順番」
「……よし、もっかいネズミーをだな」
「ハイ却下ねー」
「ああああ!」
DVDを押し込んでボクはなまえを抱き抱える。
「離せー」
「だーめ」
「離すくらいいいじゃん」
「だって怖くなったらなまえ逃げるでしょ。この前もゾンビが出てくる前にキッチンに逃げてた」
「あれは飲み物を取りに行ってただけで!」
「……ふうん、あ、ほら捕まった捕まった」
「捕まったのは今の私だー」


「……終わった?」
「うん」
「……ひとつ言わせて」
「うん」
「トイレぐらい行かせろ!!」
なまえはボクから解放されると走ってトイレに向かう。
「ついて行かなくていいのー?」
「いるかボケ!」
酷いよね、深夜のテンションだからってそんな言い方。窓の外を見れば深夜はとうに過ぎていたらしく、光が差し込んでいた。
「うわー徹夜」
いつの間にか帰ってきていたなまえは目を細めてボクの隣に座って言った。
「どうする、後2本」
「んー、なまえの好きにしていいヨ」
「じゃあちょっと寝よ」
「寒くない?」
「じゃあ暖めてー」
寝よの時点で既に寝転がっていたなまえが虚ろな目でボクに手を伸ばす。
「……あーモーなまえのバカ!」
いっつも警戒して引っ付こうとしないくせに!!
「うー」
ちょっと嬉しくなって抱きしめれば、少し嫌そうなうめき声が聞こえる。
「おやすみ」
「おやすー」
バレないように首の辺りにキスを落として、そのままなまえを腕の中に閉じ込めて寝た。


「……なまえ?」
起きるとなまえは腕の中になんて居なくて、少しなんかテンション下がる。
「おはようーてか、おそよー」
「おは……!!」
声がしてキッチンの方に目を向ければ、エプロンこそ着てないんだけど何か作ってるみたいななまえ。これが新婚スタイルっていうやつなの……?
いつもボクが作ってるから凄くドキドキしちゃう。
「どったの」
「ちょっとなまえ可愛くて動揺した」
「んな報告いらないから」
さらっと答えるわりに顔を逸らして照れるソブリをするなまえちょー可愛い。
「ほらー手伝ってー」
「ハーイ」


「やっぱエメットのがおいしい。慣れないことはするもんじゃないね、次はよろしく」
「えーボクはなまえの料理のほーがスキ」
「まーそんなもんだよね、自分で作った物よりは作ってもらった方が美味しいし」
目の前で目玉焼きの黄身以外を食べてくなまえが可愛い。
ボクもなまえと一緒に買いに行ったお揃いのお箸を使って食べるんだけど、ボクは箸使いが下手だから既に黄身は割れている。なまえの好みは半熟だから、お皿が黄色く染まっている。
「ボクらってさ、仲良いよね」
「うん」
「目玉焼きに何を掛けて食べるかまで知ってるし」
「うん」
食べながらこちらを見てくるなまえ。
「あのね、信じてくれないかもしれないけどサ。ボク、やっぱりなまえ好きだよ」
「私もだよ」
少し眉を寄せて困ったように笑うから、辛くなる。
ボクが目玉焼きを綺麗に食べられるようになるくらいには、きっとなまえを本気にさせてみるからね。

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