偽物女神


※女装してます注意




「ただいまー」
ばたばたと部屋の奥から足音が聞こえてくる。
「おかえりなさい!なまえさま!」
がばっと抱き着かれた。その衝撃によって仰け反りそうになった私を支えてきたのも原因である彼だが、彼はそれさえ気にもせずに私から鞄やらいろいろ受け取って中に入るよう促してくる。
「こうやってなまえさまをお出迎えできるのも久々ですねえ」
「そうだね、いっつも私が先だから」
彼はお気に入りと言っていたスカートをはためかせ、先にリビングへ入って行く。
「なまえさま」
既に料理の並ぶテーブルに座れば、隣に寄りかかるように座ってくるノボリ。
「今日、は」
腕を絡ませ耳元に顔を近づけてくる。
私はその色っぽさにごくりと喉がなる。
「何も、言って下さらないの、ですか?」
「はいはい、すごくかわいい」
首をすくめ、ノボリの方を見る。近いなあ。
「好きです、愛してます」
「それ、せめてスカート履いてないときに行って欲しいってのは贅沢?」
私の言葉に可愛く頬を膨らますと噛み付くようにノボリが言う。
「わたくし、かわいいでしょう!」
「うん、かわいい」
さらっと答えれば、少し顔を赤くした。
「ならよろしいではないですか、これもわたくしなのでございます!」
「知ってる知ってる」
私の言葉にわざわざ反応して透き通るように白い肌を赤くし、めいいっぱいのおしゃれをしているノボリのことをかわいいと事実感じているのだから、別にダメだとまで言う気はない。
「はいはいかわいいかわいい」
逆に私からよりかかれば、機嫌を直したのかふわりと笑う。
「いただきます」
「ええ、いただきます」
さて、ここまでにどのくらいの人がどのくらい異常に気づいたのかは知りませんが、気づいてくださった方もいらっしゃるだろう。
彼の素敵な趣味の一つに女装というものがある。
女装とは、「女性用」と規定されている衣服・装飾品を男性が身につけ、これによって外見の衣装上は女性の姿になることだ。
後ろ指を指されるどころではないような趣味だ。
基本真面目な彼がなぜ、こんな趣味をたしなむようになったか私は知らないのだが。
私自身は彼が好きで、だから世間一般に受け入れられそうにもないこの趣味を許容している、というのは確かなことだと、そう思う。


食事も終えてソファーで一息。
今日はノボリさんが奥さんしてくれるらしく、お皿洗いは一任する。
しばらく聞こえていた水の音が消えたと同時に足音が近づく。
すとんと隣にノボリが座る。
こいつ女装のためにダイエットとかしてないよね、いくらなんでも軽すぎないかな。
そのすとんという音の軽さに心配になってくる私など知らずにこにことこっちを見てくる。その上機嫌の顔は彼の片割れを思い出させる。
「ノボリ?」
「なんですか?」
「うーん、いやなんでも」
そうですか、と耳元で呟かれぞくっと体が跳ねる。
「ひゃ!」
私の体をやんわりとソファーに倒そうとするノボリが四つん這いになって、私の体の両脇に手をつく。
「の、ノボリ?」
「なんですかあ」
声もいつもより楽しそうで、間延びしている。バトルの時みたいにぎらぎらした目が私を射抜きそうでつい視線を落とす。その先にはおおよそ男性が付けるものではないタイプの下着、まあつまりブラジャーが覗いているのに気付く。
さすがノボリさんそこもちゃんとしてますよね。というかそれ私の物じゃないですか。なんて余裕そうに考えてるけど、結構やばいのだ。そのサイズの合わない下着や、どう見ても同性にしか見えない美人が私を求めてきているそのありえないようなシチュエーションが背徳的で。
身体が固まり、心臓がばくばくと言っているように感じる。
じりじりと距離を詰めてくるノボリに後ろに下がろうとして、そのままソファーに倒れてしまう。
「ふふ」
なんて蕩けたような笑顔で笑うノボリ。
いやだから、ちょっと。
そのまま体を重ね、私の耳元にその紅の引かれた唇を近づける。
ちゅっとリップ音が聞こえ、体が揺れる。
「はあ……」
なんてわざとらしい吐息が私の理性を削っていく。
ノボリ、なんて声が勝手に漏れてしまう。それに答えるみたいに何度も何度もちゅっと聞こえてくる。ぞくぞくと体が震えてしまう。
ぎゅっとノボリのお気に入りそのAであるブラウスを握る。
それが合図になったのか「くすっ」と笑い声が聞こえた瞬間、耳に生ぬるい感触を感じ、体が大げさに揺れてしまい、ノボリとソファーの間から落っこちてしまった。
「いったあああああ!」
ノボリのすとんと違い、結構な音が聞こえて身体の痛みと同じくらい、心も痛くなる。
「……なまえさま」
責めるようなノボリの視線に、さっきまでのえっちい雰囲気が消え失せてしまったことに気付く。
さっきまでノボリのペースに巻き込まれてしまっていたことを思い出し、どうしようもないくらい恥ずかしくなって、お風呂場に逃げ込んだ。
「さっきのなまえさますごくかわいかったですよ!」
「うっさい!」
ドア越しに聞こえるデリカシーのないノボリのセリフに私はいつ出るかと頭を抱えることになったのは言うまでもない。
H25.09.12

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