僕+君=(しゃせも様)


ノボリくんは数学が嫌いらしい。勝手に親近感を沸かせていた私が悪いのだけど。

私の学年で提出物が出せてない生徒や成績の悪い生徒に数学の補習が開かれた。
「では、なまえさん。頑張ってくださいね」
ノボリくんは数学が心底嫌いらしいが、でもできないわけじゃないらしい、さらっと提出のプリントを終わらせて立ち上がった。無情にも教室のドアが閉まってしまった。
先生は他の先生に呼ばれて終わらせたら先生の机に置いて帰れなんて言うものだから、ほとんどの人がサボって帰ってしまったのだ。例えば隣の子とか。
もうまばらになった教室でシャーペンをいじりながら横目でプリントの問題を見る。
「んー」
元々私も帰ってしまおうと思っていたのだけど、真面目なノボリくんがするというから付き合って残っていたけれどこれでは本末転倒ってもんだろう。
「もう、xでもyでもいいよお、ポケモンしたいい」
最近テレビで新しいのが出たらしいそれを呟きながら、がじがじと問題の式とにらみ合う。
案の定、分からない。
帰ってしまおうかと思いつつ、だらりと机に倒れかかる。一人だからだろうか、だらしない私がでてくる。
「面白いよね、ポケモン」
ぼーっとしていたからだろう、覗き込んできたクダリくんがいて仰け反ってしまう。
「く、クダリくん!?」
「えへへ、ノボリに聞いてきちゃった」
「へ?」
「数学、教えてあげる!」
満面の笑みに、浮きかけていた腰はまた椅子に戻ってしまった。


「でね、この公式使って、それで次は判別式使って、それで」
右から左へ流れていくクダリくんの言葉はどう聞いたって呪文で。
「分かる?」
「ちょっと」
「分かんない?」
「しかわかんない」
クダリくんとうーんと唸る。私も一緒に唸る。
「ごめんね、もうすこしわかりやすく教えてあげたいんだけど」
「ううん私がわかんないのが悪いし」
沈黙がその場に広がる。
でも、やっぱりあんまり嫌じゃない。
「そういえばね、ぼくら話すの久しぶりだね」
声につられて顔をあげれば、プリントを覗き込んでいたせいか目の前にクダリくんがいた。
「そうだね」
いつもは教科書で筆談こそしても、まともに会話をしたことがなかったのに気づく。意識をすると目を合わせられなくなってしまう。
「……え、あ、」
「なまえ照れないでよ……」
クダリくんが頬を染めはにかむものだから私はまた俯いてしまう。
「なまえ」
「なに……」
「あのね、ぼく」
そっと窺うようにあげれば、視界いっぱいにクダリくんがいた。
「……くだ、」
黙ってと言わんばかりに人差し指で開いた唇を抑えられる。
「なまえ好き。ごめんね、えっと」
ちゅっと押し付けられた口と口はすぐに離れる。
「月が、きれいですね」

―――――――

しゃせもさん、リクエストありがとうございます。
いえいえこちらこそ絡んでいただきありがとうございます。
私が馬鹿ですから教えてあげるクダリさんが書けなくてすみません^^
これからも朝食を宜しくお願いします。

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