Keep Out(りょうさん)


「くーだーり!」
ビクッと身体を飛び上がらせて振り向いた絶世の美女は私の顔を確認して強張らせた表情を緩ませる。
「なまえ!」
ふわっと微笑んだクダリに私はきゅんときてしまう。
「あ、なまえ!わかってると思うけど」
「クダリのお仕事終わるまで待機、オーケー?」
「うん、オッケー!」
にかっと屈託のない笑顔に釣られて頬が緩むのを感じる。
よく聞くけど、天使ってもう間違ってない気がするよね。
誰だ最初に言い出したのは。ぴったり過ぎる。


「おまたせ!ぼくもう準備オッケー!」
えへっとかわいいひらひらした私服に着替えたクダリがすこし大きめのバッグを持って私の前に現れる。
ひらりと広がるスカートがまるで本当に天使の羽のように見えそうだ。
「早くいこ!」
私の手を引いていくクダリだけど、向かう先は私の家。
クダリの久々の休みを私とのお泊りに使うのだというから友達思いだよなあ、なんて少し考えながら手を握り返す。
それに嬉しそうに微笑むクダリに釣られて私も笑ってしまう。
そうやって雑談をしながら私の家へと到着したときにはもう、時計の針はてっぺんを回りかけていた。
「……お風呂沸かすからさっき荷物おこっかー」
「ん、はーい」
既に勝手を知っているクダリはまっすぐいつも通す私の部屋へ向かう。
私はあまり溜めることのない浴槽にお湯を溜めるようにして、クダリの後を追う。
少しだけ開いていたドアににたりと口角をあげる。隙間から様子をうかがい、驚かそうと思い息をひそめた。
「……ぇ」
ちっさく声が漏れてしまった。
クダリは私が最近使っていると話したクマの抱き枕をぎゅうっと抱きしめていた。
あ、まあ、ふかふかでかわいいから仕方ないかと思って大人しく驚かすのをあきらめてドアに手を掛け……。
隙間から見えたクダリはそのぎゅっと抱いた抱き枕を熱っぽい目で見てつい固まってしまう。
「なまえ」
クダリの声が妙に色っぽくて、身体が熱い気がしてきた。
「なまえ」
クマに向けられたその声にえも言われぬものが湧き上がってくる。
「なまえ」
やめて、やめてよクダリ。
ちゅーと口を合わせるだけのキスをクマに何度も何度もするクダリに、私は自分の頭のおかしさを再確認する羽目になった。
なんで、私はあんなことするクダリに嫌悪感もなにも感じないのだろうか。
我ながら笑える。それどころか、嬉しいんだから。
「くっだりー入るよー」
覚悟を決めてばーん、と勢いよくドアを開けば、さっきの光景が嘘みたいに無邪気にクマを膝の上に乗せて笑うクダリがいた。
さっきのなんてウソみたいににこっと、いつもみたいに笑うものだから私は何も言えなくなる。
「……」
きっとさっきのは私がクダリのことが好きすぎて幻覚でも見たんだろう、きっとそう。
「なまえ?」
「なんでもないよ、かわいいなあって」
実際クマを膝に乗せたクダリはすっごいかわいい。そしたらばっとクダリは立ち上がる。
元から私がベッドの脇に立っていたせいか距離が近い。
「なまえのばか」
「……?」
「かわいいなんて言わなくていい」
眉を顰めてむすっとした表情。
「……ぼく、男の子に生まれたかった。どうしてかわかる?」
掴まれた私の手がクダリの胸に押し付けられる。やわらかい、なんて今思うことじゃない。
「……」
答えない私にその端正な顔を歪めて笑うクダリに焦ってしまう。だめだよ、クダリ、だってあなたは天使なのに。
「ぼく、なまえが好き」
「く、くだ」
「だめ、聞いて」
鋭い声に身体が固まる。
「ぼくね、女だけどなまえが好き。キスしたい、いけないこともしたい、もっともっと一緒にいたい、抱き着きたい、好き、大好き」
耳から入ってくる言葉に脳内が侵される。クダリの柔らかで甘い声が鼓膜をゆらす。
「なまえのばか」
為すがままになっている私に、さっきのクマみたいにキスをされてしまう。ばかって、いう度にキスを落とす。
「だめ、だめ」
「だめじゃない」
私に抱きついて、柔らかいその胸を押し付けて、だめだとわかっているはずの自分が抑えきれない。
「クダリ、やめ、やめて?」
キスをしようとまた近づいていたクダリの顔がぴたりと止まる。
「なまえはさ、ぼくのこと嫌い?」
「ちがっ、そうじゃない!」
「じゃあいいよね」
また近づくクダリとの距離が5pくらいになって、やっと私は小さな抵抗としてぎゅと腕を掴んだ。
「ねえ、だめ?」
少し諦めたように力無く笑うクダリが私にそう尋ねる。
違う、そんな顔しないで。ただ、出来るならこの気持ちを嘘だと思わせてほしかった、それだけなのに。
「……だめじゃないよ」
5pの距離を詰め、私とクダリは生ぬるいベッドの上に落ち込んだ。
ふかふかのくまはベッドからこぼれ落ちた。

ーーーーーーーーーー

りょうさん、リクエストありがとうございます!
あ、あんな長いラブレターもらったの初めてです///
文章が好きとかいろいろ嬉しくて、ありがとうがいっぱいです。
せっかくのリクエストこんな感じになっちゃいまして、ご期待に添えた感じはしません。
こんな駄文サイトではございますが、これからも見ていただければ幸いです。


H25.09.12

戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -