秘め事


ロイヤルイッシュ号で開かれる舞踏会ならぬバトル大会。といってもまあ、ただの接待だ。
そこそこ名のあるトレーナーや今回共同経営という形になったバトルサブウェイの方とスポンサーのじじいというメンバーだ。
抜けることのできない立場の私はその、結果の決められたつまらないバトルを脇のテーブルから眺める。
あの人も不憫なものだなあ可哀そう。
あのじいさんなんて、自分の衰えた腕に気付かないでマワリのやさしいひと達にご機嫌とられて。付き合わされる身にもなればいいのに。
はあと深くため息を吐いて、ぶくぶくと炭酸の含まれた液体を飲んだり、遊んだりする。
はしたない、がまあどうせ私をわざわざ見てる人もそうはいないだろう。
あのじいさんまだ戦うのか、ガキみたいに喜んでお気楽なものだ。手加減されてるって気づいてるのか、そうじゃないのか。
さっきの人に変わって、また次の人が付き合わされていた。
あれは、あー、誰だろ。あの人も負けるのか。
見るのも飽きてきた私は、海を見ようと立ち上がる。
散々遊んで炭酸も抜けた液体を持って手すりに体を預ける。
こんな映画あったなあ、なんて潮風に靡く自分の髪を押さえる。そんな馬鹿な考えに自分で笑ってしまう。透明な水面の奥に、微かにピンク色が見えた。ママンボウ?それともプルリル?ブルンゲル?
微かに揺れた腰のモンスターボール。そうか、この子も外にでたいのか。最近水に触れさせれてない。
「君は一体しか連れてないの?」
目の前にいきなり現れた男の人。顔を見て驚いて、バトルコートの方を見れば同じ顔が未だじいさんの相手をしていた。
手加減慣れしているのか、盛り上がってきてるように見える。
「ふふっ」
私の困惑した表情にいたずらが成功した子供のように笑う男の人。
「あれね、ぼくの双子の片割れ」
「あっ、そうなの」
「うん。君の手持ちは一匹?」
「ううん、今日だけ一匹。あんなのの相手させられるなんて真っ平ごめんだもの」
「確かにね。ぼくもね、したくなくて逃げてきちゃった」
まるで本当に子供のように笑う彼の表情を直視できず海面を見る。
「退屈」
「そうだね」
すっと私たちの間に風が吹き抜ける。
だんだんバトルのギャラリーが増えてきている。
「ねえかくれんぼしようか」
私はついつい正気かと男の人を見返す。まっすぐ私を見るその人の目は冗談を言っているようには見えない。綺麗な色だ。
「一緒にいなくなっちゃおうよ」
「ばれちゃうよ」
「ばれないよ」
その瞬間、落下防止の手すりの上に立ったその人が私に手を伸ばす。凄い平衡感覚。まさかの海の中に……ってことか。私は着ているいつもと違うおしゃれなドレスを一度見て、まあいいかなんて思う。
私がその手を取った瞬間浮遊感が私を襲った。その人の腕に抱き込まれ、空中に身が投げ出された。
わあっと歓声が上がるのが聞こえた同時に私たちは、音を立てて海に落ちる。
「ぷはっ」
隣のその人にしがみつきながら水面から顔を出す。
その人もびしょびしょになってぴたりと、引っ付いた髪をわずらわしそうに掻き上げた。
その姿に唾と口に入ってしまった海水を少し飲んでしまった。
「うっ」
塩辛い。私の微かな呻き声に反応してちらりとこっちを見てくる。
「ね?気づかれなかったでしょ?」
「うん」
「すごいよね、僕の兄弟」
視線を甲板に向けたその人に釣られて私もそっちに意識を向ける。
わああああ、とさっきよりもっと大きな歓声に少し見たい気もしてくる。
「接待しないのね」
「何言ってるの?あれでも本気じゃない」
この人は自分の兄弟が大好きなのだろう、誇らしそうに言う。
「僕もね、強いんだよ」
「そうなの?」
「うん」
「へえ。ねえ、これどうやって上がるの?」
「気づいてもらえるまで待つ」
考えなしかよ。
「えー、結構冷たいのに」
「まあまあ、ちょっと楽しいでしょ?
あ、ねえ、その子水タイプなんじゃない?」
「えっ」
視線は私の腰の、さっきよりも激しく揺れるモンスターボール。
「そう、だよ」
「ずっと浮いておくの辛いし、出したら?」
「……そうだね」
開閉ボタンを押すと、光を帯びて大きな身体が姿を現した。
「わあ、ミロカロスだ!」
「そうなの、おいで」
ローと鳴きながらすり寄ってくる。
「うわっ」
勢い余ったのかのしかかりのようになり、水の中に身体が沈む。男の人が追いかけるように水の中に入ってくるのが見えた。
「大丈夫?」
「うん」
「ロー」
申し訳なさそうなミロカロスを撫でてあげる。
「いいのよ、べつに」
「ろー?」
「ねえねえ、さっきの青色のポケモンってプルリルかな?」
「かもね」
じゃあ、私の見たのもメスのプルリルかもしれない。
「このまま気づかれずに船が帰っちゃったらどうしよう」
冗談交じりのその人に私は笑う。
「ミロカロスが連れて帰ってくれるよ」
「そうだね!」
「ねえ、私ダイビングしてくる」
「えっ?」
「一緒に行く?」
私は、さっきのその人みたいに手を差し出す。その人は少し苦笑いをして私の手を取った。ミロカロスに巻き込まれるように沈めば、久々の感触。
気泡と、青い世界。
青色に飲み込まれたその人はまるで男の人だけど人魚姫みたいに綺麗に見えた。


少しして息が続かなくて、海面に顔を出す。
「やっぱりドレスだと駄目ね」
「うん、服重いや」
苦笑いをしていれば、さっきよりもっと大きな歓声が聞こえた。その後すぐに慌ただしくなった船上。
「クダリー!」
隣の男の人に声質が少し似ている声が聞こえた。
「あ、ノボリだ。バトル終わったみたい!」
「気づかれちゃったか」
「ミロカロスになみのりしてもらうのも少し期待してたのにね」
そう言ったその人、クダリさんは「おーい!」って声を上げて答える。
少ししてクダリさんと同じ顔が甲板から顔を出す。
「ノボリー!」
「お馬鹿!今人に知らせてきます!」
ノボリさんは安心したような顔でクダリさんに怒ってまた見えなくなる。
「ねえ、名前教えて」
「……私の名前はね」

内緒よ、クダリさん。
貴方がこの船から降りるまでにまた私を見つけてくれたなら、きっとその時に。

昔見た映画のヒロインが言った言葉だったように思う。
クルーの投げた浮き輪をキャッチする。
「そんな!」
「だってこれはかくれんぼでしょ?」
不服そうなクダリさん。早く私を見つけて。
H25.07.21

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