Secret kiss


椅子に座ってうたたねをしている君は綺麗で、いつもは僕を見て笑ってくれる瞳が閉じられていた。リップクリームかなにか塗ったのか赤々とした唇が、ひどく妖艶で。
つい、君にキスをした。
「あ」
僕はなんてことしたんだろうと、そう思いながら君に触れた部分に触れる。
いつもは恥ずかしくて君と目が合うだけで顔を反らしてしまう僕が唯一キスをできるこの一瞬。
彼女の瞳を見ていると吸い込まれてしまいそうになる。
ごめんね。
出来心だった、最初確かにそうだけどあれからつい繰り返してしまうのだから、何も言えない。
眠る君にキスする度に謝る僕に君がずっと気づかなければいいのに。あるいは眠り姫のように眠る君が眠りから覚めて、僕のこんな行動さえ許して笑いかけてくれればいいのに、なんて身勝手すぎるよね。


「お、わったあぁ」
欠伸をして腕を伸ばす。
書類の山が積まれているが、ここまでくると達成感より疲労感の方が強い。
コーヒーを飲んで一息つこうとカップに手を伸ばす。
「あれ」
傾けても一向に口に入ってこないそれに首を傾ける、あ飲み干しちゃってたのか……。
今から淹れるのも億劫でつい机に突っ伏してしまう。ああカフェイン切れちゃったかな、なんか眠い……。
どうしよう、まだ見回りいってな……い。


……。
あれ、僕寝ちゃって……。
「――でしてね」
「へえ、そうなんですか」
すっと目を覚ました僕は話し声に身体を固くする。突っ伏したままだから顔は見えないけれど、きっとノボリ兄さんとなまえちゃんだ。
「あははそーなんですかあ!?」
「ええ」
なんの話かわからないけど、なんだか楽しそうだなあなまえちゃん。僕といる時より笑ってる。僕、恋人なのに。
そりゃ僕よりノボリ兄さんの方がよほど話しやすいよね。
「あ、そういえばなまえさまは気づいていらっしゃるんですよね」
「なんのことですか?」
「クダリがあなた様が寝てる間にキスをしていることでございます」
「ああ、はい」
な、なんてこと聞いてるんだ兄さん!!というか、え、バレて!?
「最初はわかんなかったんですけどねー」
「いつから分かっておりましたか」
ありがとう!!兄さん!!
僕が寝込みに襲うような最低な男だっていつから……。
「先月ぐらいですかねー」
ほぼ最初っからじゃないか!!
「やはり。申し訳ありません、弟が……」
「え?」
「いくら恋人同士といえど、寝込みを襲うなんて」
……そう、だよ。そうなんだよ!!ああ、僕はなんてことを!!
「ノボリさんもやめてくださいよ。そんなこと言ったら私も変態みたいじゃないですか」
え?えっ、ええぇ!!
「どういう意味ですか」
にやにやとしてそうな声の兄さん。うわあ、絶対に後で何か言われる……。
「クダリさんがしてるって分かってから、私もしてるんですよ」
「おや」
……嘘。なんで僕起きてないの!!
なまえちゃんからのキスなんて、うわああああああ!!
「クダリさんは気づいてないみたいでしたね、私がしてるのもされてるときに起きてること」
「そのようですね」
はあ、全くなんてため息をつくノボリ兄さん。
「私最初はそういう決まりか、なにかと勘違いしたんですよねー。あ、流しお借りしますね」
ノボリさんはなにか飲みます?
ではココアを頂けますか。
と会話を聞きながら、僕はオーバーヒート寸前で。
「クダリさんもココア好きですよね」
「ええ、私と同じで甘いものが好きですから」
「それにしてはコーヒーよく飲んでますよね」
「あ、それはコーヒーは眠気覚ましですよ。本当は苦いのはかなり苦手ですから」
なんで教えちゃうの兄さん!!ああ、もう嫌われちゃうよ、うわああああ。
「クダリさんらしいですね」
なまえちゃん……。どうしよう、今なら僕き、きキスできる気がする……なんで僕寝たフリなんて!!
あ、なまえちゃんが近付いてきた。どうしよう……。
コテンとカップが置かれる。あれ?って思っていると、なまえちゃんが僕を覗き込もうとしていて目を固く瞑る。
「バレバレですよクダリさん」
頬の柔らかい感触に体がびくりと震える。もしかして……。
僕が顔を上げたと同時になまえちゃんは部屋から出ていった。
「耳真っ赤ですからね」
ふふふと笑ってココアを飲む兄さんに僕もつられて飲んじゃって。あ、あったかい。

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