two


「コレ見るの?」
「はい!」
ノボリくんとのデートである。まあ、多分同じ学校の人の一人や二人はいると仮定して、なによりデートだからそこそこのおしゃれをした私は、わりと驚いてしまった。
何にと言えばノボリくんの趣味だ。
チョイスがラブでもホラーでもない、丁度私たちの時代から続いている某アニメの映画だ。服の趣味とかじゃないよ。彼は雑誌から出てきたような格好だから隣の私ははずかしい。
CMを見る度になついな、なんて声を漏らすくらいには好きで、毎年一緒に見る人さえいるなら見に行きたいと時折思っている私としては悪くはないけれど。
「ポップコーンとか買う?」
正直言えば金はかかるし、大概味に飽きるし無心で食べるから食べすぎるそれはあんまり欲しくない。好きだけど。
「なまえ欲しいのなら買いましょう」
「じゃあジュース買って入ろっか」
その言葉に微笑んだノボリくんはアイスティーにミルクとガムシロを一つずつ、私はガムシロを一つ多めに貰って映画館の中に入った。
中はさすがもさすが、子供と大人の親子組、それから男の子グループ。高校生らしき人影はまあいない。居てもきっと三人くらいだろう。
通路側の席に座ってノボリくんの方を窺えばと始まりますよ、と前を見るように促される。
最初にお決まりの盗作ダメ!映画館でのマナーを守ろうね、みたいなアニメーションが流れる。
そのあと、他の映画の宣伝が流れる。
「あ、このドラマ見てた」
「わたくしも見ていました」
「あー、シーズン2とかじゃなくて映画になるんだ」
「そのようですねえ」
隣でカチッとガムシロを入れる音がする。それを追いかけるみたいに私もカップの蓋を取ってガムシロとミルクを入れる。
「これも見に行こうよ」
返事がない、ただの屍のようだ。
いやいや、返事がないってことはお前とは行きたかねーよって意味なのかと、不安になりつつ、ノボリくんの方を見れば驚いたような表情でこっちを見ている。
「い、いいのですか」
「いや?」
「行きます、行きましょう!」
声おっきいよ!!ノボリの声に迷惑そうに振り向くお母さんやちっさい子。
「ノボリくん静かに」
「……ノボリでいいですから」
周りの人が振り向いたからか、体を縮めたノボリがいつもみたいに言ってくる。
私もすこし恥ずかしい。
「ノボリく……」
じっと見られる。拗ねた子供のようにじっと見てくるノボリくんの視線から逃げるようにそっと前のスクリーンを見る。
ーー全人類とたった一人の恋人。どちらを選ぶ。究極の選択。
ベタな宣伝だなぁ。そう思っていれば、肘掛のところに乗せていた左手にノボリくんの手が重ねられる。
「わたくしはなまえと全人類ならなまえを救いますよ」
ちらっと横目で見れば、じっとこっちを見ているようで見てないふりをする。
「なまえはどうなんですか」
「……ノボリくん、恥ずかしい」
「ノボリ」
「……あ、ほら始まったよ」
「なまえ」
人差し指を口に当てて、それこそ周りのちびっこにするみたいにする。ノボリ君は納得いかなそうだが、始まった映画のために体をそこそこふかふかな座席に身をうずめた。


「おもしろかった!」
「ええ!すごく!」
映画館から出た私たちは某セイレーンのマークのカフェに入りキャーキャー言っていた。
いい年している高校生がなにやってんだと言われたら何も言い返せない。
フラッペチーノうめえ。
「もう、毎年行きたい」
「じ、実はですね、わたくしずっと弟と見に行っていたのです」
「あ、そうなんだ?」
「そうなんですよ、それで来年からはなまえと一緒に行きたい……なんて、いいですか?」
「とりあえずあのドラマの続編見てからね!」
テンションの上がった私に目をぱちぱちさせたノボリ。そんな変な生き物でも見たみたいな目で見ないでほしいとこだ。
「でも弟くんはどうなんですか」
「弟のことなんていいでしょう……」
ノボリくんは存外子供っぽい。
拗ねたように身体を横に向けて、ちゅーっと一緒に買った抹茶のフラッペチーノを吸っている。
「あ、ノボリくん」
「なんですか」
「これ飲む?」
「え?」
先ほど新作の二つで唸っていたノボリくんなのだが、ついに決めた味ではない方を私が頼むとまた唸っていたのだ。その姿が、思いもよらない。ギャップ萌か、そうなのか。
ついでに私のはキャラメルだ。
「……よろしいんですか」
「うん」
「では」
表情をきりっとさせて、まるで毒入りでも飲むみたいな神妙な表情だ。
「もーらい」
ノボリくんの抹茶も奪えば、焦ったノボリくんが咽る。
「大丈夫?」
「へ、っきです」
「全然平気そうじゃないっていうね」
笑いが口から漏れる。


再来週はまた映画である。
H25.06.26

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