どうでもいい


私は今から、死ぬ。そう、死ぬの。
ガタガタって音が近づいてくる。ライモン中央駅。そう、00:20の電車に轢かれて私は死ぬ。
周りには誰もいない。終電だから。だから、私の醜い、私じゃなくなった肉片を見る人もいない。誰にも迷惑掛けず、死ぬ。すてきなことだ。
黄色い線の外側に一歩踏み出す。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
ライトが私を照らす。いまだ。

あれ、足が、動かない。
「あのね」
誰もいないはずのホームの方から声が聞こえて、私の目の前を電車が通る。ピンクのラインだ。かわいいね。色だけ。
生暖かい風が私を撫でて、気持ち悪い。
「死ぬの迷惑、やめて」
ドアが閉まって電車は通り去って行く。私の足にさえ掠ることなく、ダイヤ通りに。
完全に電車が見えなくなったら、私の足が動いた。そっと後ろを振り向けば、見たことある恰好の白い人。隣に浮いているシャンデラを見る、あ、足が動かなかったのはこの子のサイコキネシスかもしれない。
「なんで」
「きみこそなんで?」
「はあ?」
なにを言ってるんだ、この人。
「なんで自殺しようとしたの」
あっけからんとなんで、まるで今日の朝食のメニューでも聞くみたいに聞いてくる。腹が立つ、なんで、って。
「貴方に関係ないでしょ!!邪魔しないで!!」
私は!疲れたから!だから死ぬのに!!
「邪魔しないで!!」
その瞬間、私は地べたに押し付けられる。
この!ふざけるな、サイコキネシスとか!!人間にするものじゃない!!
「あのね、うるさい。間違えたから、ここで死なないで」
「はあ!?」
「あのね、きみが死んでも誰も困らない、同感。ぼくきみのこと知らないからそう思う。でもね、きみがぼくのダブルトレイン使って死ぬのすごく困る。それにきみはしらないかもしれないけどね、きみのミンチでべちゃべちゃになったトレインのお掃除する人も困る。今から始発に間に合うように車体綺麗にして、汚くなった線路とホーム綺麗にして、それにぼくの新人の部下がきみの死体みて吐いちゃうかも」
だから他のとこにして。
こいつは何を言ってんだ、と思う反面、すこし申し訳なくなる。
誰にも迷惑掛からないって思ってたからそれだけの人に迷惑掛かるってことに驚いて、止めないこの頭のおかしい人にも驚いた。
「例えばね、首吊り、あダメだった、首吊りってつらいんだって、しかも汚い。溺死も汚いね。飛び降りもね、掃除大変。あとね、それから」
「ほっといて!」
私はいつの間にかサイコキネシスが解けているのに気付いて、立ち上がって駅を出る為に出口へ向かおうとした。
「待って!」
すれ違う瞬間に腕を掴まれた私はぐるんとクダリさんの方を向かされた。
「でもね!誰にも迷惑かからない死に方、ぼく知ってる!」
にこっといい笑顔で、そんなことを言いだしたその人に私はどう答えればよかったの。


「あのね、きみポケモンは?」
「ああ、えっと両親に預けました」
「へえ、バトルは?」
「貴方の客になる程度に」
「……ぼく知らない、ほんとに?」
「ほんとです」
「ふーん、じゃきみ弱いんだね」
そうですよ、なんですかこの人。
私の手を掴んで、こつこつこつこつ、路線を歩かされる。
暇つぶしのためだろう、私に思いついた質問を適当に投げかけて、飽きたらやめての繰り返し。時計も何も持ってないから実際にはわからないけど、多分一時間くらい歩いた気がする。
「どこ行くの」
「……知りたいの?死ぬのに?」
「知りたいです、死ぬから」
「ふーん。ブラックシティ行くの」
「え?」
あの治安が悪くて有名な?
なんで?いけないお薬でも売ってるのかな。
「あのね、きみの体売るの」
「え!?」
「売るって言ってもばらばらの方だよ?きみをバスラオみたいに解体して、腕はいくら、顔はいくらって」
「何言って!」
訳が分からなくて、立ち止まってクダリさんの方を見る。
クダリさんの目は心底笑ってるみたいに見えた。
「だってね、きみの全部人の役に立つ。良かったね」




そのあと私はみっともなく死にたくない死にたくないって喚いた。そしたら、またふーんって言って、反対に方向転換した。
「あの」
「なあに?」
「また来ていいですか」
「死なないならいいよ」
クダリさんは出口まで送ってくれた。
「あ、ねえ、名前教えて」
私がまたまだ明るいライモンの街へ戻ろうとしたときにクダリさんが言った。
「え?」
「あのね、来るなら名前覚えとくね」
最初に「なんで死ぬの?」って聞いてきたのとおんなじトーンでクダリさんが聞いてくる。
「なまえです」
私はクダリさんに子供みたいに手を振って、生暖かい風の吹く街へ歩き出した。

―――――――
別にクダリちゃんヒドイわけじゃないつもりで書いてます。
H25.06.09

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