ラブラブカップルが勝負をしかけてきた!


「ここまできてもらってごめ……なにやってんの!?」
「エメットではありませんか」
「エメットさんこんにちはー!」
インゴいないからバトルできないなーって気を抜いていたエメットの前に、コート脱いだインゴとその彼女、つまりなまえがマルチトレインでやってきた。
あっけからんとした二人に抗議するけど聞く耳持たず。主にインゴが。
「さあなまえ、どうぞ」
「ちょっとインゴ!仕事!!」
なまえの肩に手を置いて、耳元で囁くようにボールを投げるよう促すインゴになまえははずかしそうに身を縮めて、びくりと肩を揺らす。その反応にまるで悪人のように口角を釣り上げるインゴが騒ぐエメットに視線をやる。
「いいでしょう、お前の担当は元からダブルなんですから」
「だからってサブウェイボスが彼女とマルチとか意味わかんないから!!」
「問答無用です、なまえ行きますよ」
「はいインゴさん!」
いい返事のなまえとインゴはぎゅっとラブラブカップルのポーズをとる。いらっときたエメットが眉間にしわを寄せる。
ぽーんと投げられたボールから出てきたのはブルンゲルが二体。青とピンク。
「インゴ、ちょっとなめてるわけ?」
「Hum……どこがですか」
「同じポケモン色違いとかふざけ過ぎ。それでボクに勝つ気な訳?」
怒りをとーり越して呆れちゃう。見下すようなエメットにサブウェイボスらしくなんて真面目なことは言わないけど、負けるつもりで来るならそこらへんのバカップルとでも戦えば?と、バカにされ益々眉間のしわが深くなる。そんなインゴを見て、頬を緩ませて恍惚とするなまえにエメットがため息をつく。
「いって!シビルドン!アーケオス!」
いつもと違うインゴの立ち位置に少し首を傾げる二匹に少し苦笑いしたエメット。
「今日の相手は色ボケインゴ!行ける?」
答えるように鳴いた二体の声を合図にブルンゲル二体のハイドロポンプが発射された。



「……負けちゃった」
なまえが残念そうにつぶやくものだから、インゴはキッとエメットを睨みつける。なまえがすん、と鼻を鳴らした瞬間にインゴはなまえに向き直る。
「負けてしまいましたね」
なまえの頬に手を当て、これ以上ないくらい笑いかける。すごく引いた顔をしたエメットはどかっと座席に座る。
「インゴさっ……ごめんなさい、私弱くて」
「いいえ、ブルンゲルを操る貴方はとてもステキでしたよ」
「本当に?」
「ええ、本当に」
輪郭に手を這わせ、ちゅっと子供みたいなリップ音を鳴らしてちゅっちゅっと唇を合わせる二人。キィっと音を立てて止まる電車。慣性の法則に則り、傾いて転びそうになるなまえを支えるインゴ。
「インゴさん……!」
「危ないですよ、なまえ」
そして額にキスをしたインゴは恥ずかしそうに顔を赤らめるなまえの肩を抱いて当たり前の如く出ていった。
「ちょっと!?インゴ!?待って、今日まだマルチあるんだけど!!」
エメットの声などもちろん聞こえるはずもなかったのだ。

ーーーーーーーーー
ラブラブカップルのインゴとなまえが勝負をしかけてきた!
H25.07.05




あんのくそ上司!仕事サボって彼女連れて職場来るとかほんとふざけんな!皺寄せが末端新米鉄道員にきてるってことがわかんねえのか!ああもう!

上司が不在の分まで回ってくる書類をついに撃破した私は念願のトレイン乗車。
もともとバトルしたくてバトルステーションに就職した私だが、思いのほか書類が多い。いや想像していたけれどそれ以上って意味である。
それでも書類さえ終わらせれば、乗車出来る回数は自ずと増えるのだが今日は量が多すぎた。
なんでもここのナンバーワンであるインゴさんエメットさんのうちどっちかがサボりだそうだ。
時折あるけれど、その時の書類の量が分かりやすく教えてくれる。この量は確実に今日サボってる。就職して早くもそういうのが見分けられるという事実に辟易する。
「いっそどっちか死にませんかね」
「そういうこと言っとるとお前が殺されるで」
「いや、もう、ほんと」
マルチに乗っている私は遠い目をして隣のクラウドさんにぼやく。苦笑された。そしてそのクラウドさんの目の下には私より濃いクマがある。
「いいと思うんです、私のためにも一回死んでしま……」
「ほう」
目の前に現れたのは、つまり、5両目の扉を開いたのは女の人をお供に連れたインゴさんだった。サボったのはインゴさんですか。
「死ね、と言いたいのですね」
「いや、あの、えっと」
「ボス、今日はどしたんです?」
「……有休がとれないので無理やり休みました」
女の人は彼女らしい。そして、その彼女さんはこっちをちょっと見ながらインゴさんの背に隠れてる。クラウドさんとの間に入っているボス。私たちには迷惑しか掛かってないとはいえど、久々の休みに彼女とデートですか。いいですね、愛されてますね。


ついでに言うと負けてしまいました。彼女さん強い。そしてインゴさん容赦ねえ。
「……はあ」
インゴさん強かったなあ。きっとあの人は私の倍は仕事して、そしてなにより私の数十倍、数百倍強い。ため息を吐いて普通の座り心地の座席に座りこむ。クラウドさんはすでに仮眠していた、さすが社畜レベル高い。
私も寝ようかと思っていれば、七両目と繋がっているドアが開く。
「なまえー!会いたかったあ!」
ぎゅっと私に抱き着いてきたのはエメットさん。首が閉まる、死ぬ!
「はなっ、して!」
「ください、でしょ?ここではボクは上司、なんだから」
ハートが付きそうなエメットさんの言葉。
「じゃあ、エメットさん、これはセクハラってやつですよ」
「うん?これはスキンシップだヨ」
「都合イイですね」
それは良いんだが首がつらい。私よりかなり長身のエメットさんを見上げてしかも抱きしめられている体勢はひたすら苦しいだけだ。
それに気づいてくれたエメットさんは離しなどはしないもののスペースを作ってくれた。ふう。
「どうしたんですか」
チャラいと有名な彼だが仕事中にこういうことをしてくるのは初めてだ。
「え、だって今日頑張ったら、きっとインゴが明日頑張ってくれる」
そういうとこはちゃんとしてるから。嬉しそうなエメットさん。この人も久々の休みだもんね。
「そうですか」
「うんだから、なまえも明日は休みね、有休許可出すから」
「え!」
私の大事な大事な有休はいつまにか勝手に使い道を決定されていた。
「いや?」
「じゃないですけどね、別にいいんですけどね」
「そう?うれしい!」
その瞬間エメットさんは私の腰に手を回してぐいっと引き寄せられた。
「へ」
と声を上げた、というか漏れた気もするのだが口を塞がれたため、もしかするとそんな間抜けな声は出ていないのかもしれない。その直後とも直前ともいえるほど唐突だったそれ。あ、もちろん、いやもちろんというとそれはそれで語弊があるが、私の口を塞いだのはまさしくエメットさんの唇でした。
うわーやばいこの人唇ぷるっぷる。なんて余裕だった私は遥か彼方に飛んでいっていた。
「は……ふぅ」
上からのしかかるようにキスをされ、逃げようと身体が反ってしまう。
しかも、腰を抱かれて支えられてるため仰け反った私はエメットさんからの口づけを一方的に受けるしかなく。
激しいキスが続くせいで私は体勢を戻すこともできない。
「リア充爆発しろ」
いつの間にか起きてそんな私達を見ていたクラウドさんがどこか遠いとこを見てぼそりと呟いた。
うるせえ、社畜早く寝ろ。明日はわたしも休みなんだから。先輩にそんなことは言えるわけもないから、内心呟く。
というか今口がふさがれて伝えることなんて無理なんだけど。
H25.07.07

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