結婚しましょうそうしましょう


「最近お見合い話を持ちかけられるのですが」
「へー」
突如向かいで黙々と私が買ってきていたビレッジサンドを食べていたノボリがそう言ってきた。買ってきたのは私だ。
私は上司からノボリがそういう話を持ちかけられているところを見たことがあるため、適当に返してみる。
「わたくしにも選ぶ権利はあると思うのです、というか正直いいますと恋愛する時間なんてチリに等しいというのにそんな急かされても困るのですよ!」
ノボリにしては珍しく声を荒げる。
まあ、確かに超多忙なサブウェイマスター様が女と関われるのはバトルの時と唯一の女の鉄道員の私と受付嬢ぐらいですからねー。
「それなのに独り身どうこうなど、放っておいてくださればいいものを」
「ははっ」
他人事のように笑えばキッと睨まれる。残念だけど、本当に他人事だからね。
私も母からの連絡が来ないわけじゃないけど。
「ところでなまえ」
「なに?」
チラチラといつもの感じとは違う、こっちを伺うように視線を寄越すノボリ。うぜえ。
「あのですね」
「うん」
「その……」
「……うん」
「あ、あのですね」
口ごもるノボリに待つのはやめて、モモンサンドをかじる。あま、おいしい。
「わたくしと結婚しませんか」
間に挟んであったモモンがずりと滑って、私の膝に落ちた。
「あ」どうしよう、制服の替え忘れたのに。
「返事はイエス以外聞きません」
モモンを摘まんで口に放り込む私は子供みたいに蹲って聞かないアピールのノボリにちょっと呆れる。園児の方が余程潔い。
「血迷った?」
「なっ!わたくしは本気でございます!」
「いやいや、いくらうるさいからって私巻き込まなくたっていんじゃない?」
「信じて、くださいまし。わたくしはあなたを愛しているのです」
私の顔に手を添えて真っ直ぐ見てくるノボリに、冗談でも最終手段でもないってことを伝えられる。
「なまえ」
ふむ。
「ねえ、ノボリ」
「なんでございますか」
「お友達からお願いします」
「!……わたくしたちは友人でもなかったのですか!?」
おいおいと崩れ落ちるノボリはそれはもう、コントでも見てるみたいですごく楽しい。
「冗談、冗談」
はははって笑う私をじとっとした目でノボリ。そんな目で見ないでくださいよ。
「もう結構です!なまえなんて知りません!!」
「いいよ、結婚」
拗ねたノボリのご機嫌取りに結婚とか訳わからないけど。嫌いじゃない。
ぷんぷんと私に背中を向けようとするノボリは私の方をぽかんとした表情で見てくる。
「ただし、お前の無駄に高い給料三ヶ月分の指輪を私の指にはめてくれたらね」
このくらいの要求はしてもいい気がする、まあ冗談だけど。
「行きましょう!今すぐ!!」
「はいはい、ボス。シングルの時間ですよー」
私の冗談を本気で撮ったらしいノボリは私を掴んで図らずともサボろうとするものだから引っ張り返す。
「とりあえず今週末にでも見に行こうか」
「はい!なまえ!」
嬉しそうなノボリに私も頬をゆるゆるにしていたら、その日の夜勝手に私の荷物を全て自分の部屋に移動させるという暴挙に出たのだから油断ならない。
H25.06.16

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