wake up


ノボリさんがネクロフィリア。




森を通ったときのことでした。奥のほうから泣き声が聞こえたのです。
何人かの啜り泣くような声に何事かと思い、家来達を待たせ声の方へ向かいます。
そこには硝子の棺と何人かの小人が立っていました。
「なにがあったのですか」
そう、小人の一人に声を掛けことの顛末を聞きます。ある娘が死んだとのことでした。話掛けたということで、面倒ながら花を手向けようとしました。
わたくしはそのとき、彼女に会ったのです。
陳腐な花に埋もれ、静かに瞳を閉じた彼女に。
彼女の名をなまえとお聞きしました。
わたくしはすぐ、小人にお願いし彼女を貰い受けました。交渉は簡単にございました。嗚呼、可哀想ななまえ。金であなたをなまえを手放すなど愚かな方々ですね。もちろん、買ったのはわたくしでごさいますがそれは仕方のないことなのです。
「なまえ、なまえ。素敵な名前ですね」
さっそくなまえを城に連れ帰りました。弟は怪訝そうな顔をしていましたが気にすることはないでしょう。
わたくしの膝におとなしく座る彼女を撫でる。
まずは小人どもが着せていたみすぼらしい服を肩からするりと脱がせば、透き通るような真っ白い身体に息を飲みます。
「ああ、そうです。ドレスを着せて差し上げましょう。それから素敵なベッドを拵えましょうか」
黒色の映えそうな肌。……ああ。
「黒いドレスなんてどうでしょうか。わたくしの服とお揃いですよ。それからベッドは、そうですね……」
いつでもあなたの姿が見えるよう、透明なのはどうでしょう。
わたくしはなまえに笑い掛けました。
作らせた黒ドレスを着たなまえを届いたばかりの硝子でできた棺に寝かせます。
「やはり、お似合いですね」
白くきめ細かい肌に手を添えます。
「ああ、なんて素敵なんでしょう。まっしろで滑らかな四肢も血の通っていない唇も、今まで見てきたなによりも美しゅうございます」
わたくしの漏らした言葉に嫌悪の表情を晒した召使は全員部屋から出ていきました。やっと二人っきりですね。


なにか、足りません。
テーブルに置かれたたくさんの食事を見ても食欲が湧かず、フォークを皿に置きます。
なんでしょうか、この違和感。
苛立ちを隠せず、きれいに盛り付けられた料理にフォークを突き刺します。
……。
……ああ!そうです!
「なまえを連れてきなさい」
言い淀む召使を睨み、もう一度繰り返します。
「なまえを、連れてきなさい」
数分待てば、硝子の棺が運ばれてきます。
「なまえ、良かった。ほら、美味しそうでしょう」
ぱくりとさっきまでの食欲の無さは嘘のようにすんなりと手前にあった肉を飲み込みました。
あなたも食べますか。笑いかければ、棺の奥の閉じられたなまえの唇の端が上がったようにも思えました。


棺は召使たちに運ばせてゆっくりと愛しい彼女を抱き上げ寝室へ移動します。
「あなたは、軽いですね」
無駄な贅肉をつけ姦しく笑う隣の国の姫やこの城の侍女たちとは違い、あなたの肢体はしなやかで美しい。なにも語らなくとも良いのです、劣悪で醜悪で汚らしい言葉など吐き出すこともないです。なんと美しい。形の良いなまえの唇にそっと自分の唇を合わせてそのまま貪るように口づけます。
「はあ……」
唇を放してなまえを上から眺める。わたくしは小さく声を漏らしまいました。
そっと腰を抱き寄せると、ベッドに横たわるなまえの腹のあたりに耳を当てます。
その何も聞こえない沈黙に快感さえ覚えます。空虚でなにも存在していないなまえの中を想像してそっとなまえの腹を撫でます。
ああ、ああ!なんと!美しい!!
「……はあ、ふっ……」


「なにをしているのですか」
部屋に入れば何人かの召使がなまえを運び終わった直後だったようで焦ったように出て行きます。召使達が焦ったような怪訝そうな形容し難い表情で棺を覗き込んでいことに、わたくしはすこし不快感を覚えてしまいました。なまえをあんな風に不躾に見るなんて。
「大丈夫ですか」と声を掛けようと棺に近づきます。
覗き込めば、いつも通りのなまえが、……ぴくり、と睫毛が動いたように感じました。ゆっくりと開かれる瞳にわたくしは夢か何かかと目を疑います。
ずっと開かれるはずなどないと思っていたその瞳がわたくしを捉えました。何色か、と想像していた瞳に、驚愕し目を見開くわたくしが写っていました。
あ、ああ、なんということでしょう。
彼女は、わたくしの愛した彼女は生き返ってしまったのです!
ーーーーーーー
生き返った白雪姫を愛せるか、白雪姫がまた死ぬのを待つのか、もう一度殺すのか、それとも捨てるのか。
H25.05.08

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