熱病と融解


大丈夫?ベッドの淵に乗り上げたクダリが私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫です、って」
「もーこんなときくらい頼ってよ」
「風邪かもなんですよ、近い」
額の真ん中を押し返そうと手を出したところで、手首を掴まれた。痛い、病人なんだから優しくしてほしいんだけど。クダリの手ぇ冷たいな……。
「だから?」
「うつりますよ、うつったらあなたの大好きなポケモンバトルができないんですよ」
「同じくらい大好きななまえがぼくの面倒みてくれる!!」
大丈夫、問題なしとばかりに満面の笑みを浮かべるクダリ。
「しませんよ」
「ええ!!なんで、なんでなんで!?」
「いや、移りますって、言ってるじゃないですか。……なんでわざわざ病気になりにきてる人の看病をしなくちゃ、いけないんですか、ごほっ」
「そんな!なまえの馬鹿!!」
「それにクダリに移っても私も風邪なんですよ、看病どころじゃないですよ」
「もう、」
「はいはい、行ってらっしゃい」
「……なまえの馬鹿」
良い年こいた成人が拗ねたように出ていった。
恨めしそうな目でこっちを見てきたクダリはのろいでも出来そうだった。あぁ頭痛い。ゴーストタイプか。
……寂しい。クダリが来なかったらこんな風に思わなかったかな。
クダリが握ってきた手首に触れながらそんなことを思う。
はあ、自分で行けって言ったのに……。今後悔してどうするの私。
クダリ早く帰って、来れないよね。今日はむしろ夜勤だった気が。
もう、寝ちゃお。熱冷まシートをつけて布団を被る。クダリのばーか……。



「なまえ?」
うっすらと目を開ければクダリがタオルを絞っているのが見えた。
「起きた?」
「クダ、りぃ?」
「うん!」
「しご、とは」
「んもー、そんなの心配しなくていいってば」
有休消費してきただけだから、そう言って笑うクダリがなんだかかっこよく見えるのは私がクダリ馬鹿だからか、それとも風邪のせいなのか。
起き上がろうとすれば、横に座って私を寝かそうとする。頭を撫でられて、なんだか子ども扱いだ。別に嫌いじゃないけど今日はされたくない気分だ。
「ダメ」
「で、も」
「寝てて、ぼくおかゆ作った、味見もオッケー、なまえに食べてほしい」
「言い方がいじわる……」
「待ってて」
そう言ってドアから出て行ってしまう。
「あ」
なんとなくさびしくなって手を伸ばす。もちろん、何も掴めず空気を切る。
その子供みたいな動作に恥ずかしくなって布団を被ってしばらくすると、また楽しそうに近づいてくる足音。
「なまえーお待たせー」
「待ってない」
「嘘つきー」
にやっとしたクダリは片手でお盆を持って私の寝ているベッドに腰掛ける。私がちょっとだけ顔を出せば、無理やり掘り起こされる。
「はい、あーん」
「じ、自分で食べる!」
「あーん」
「……」
「あーん」
私の口におかゆを掬ったスプーンを押し付ける。意地でも拒否しようと口を噤めばにこっと……いや、ニヤッと笑ったクダリ。
「あーんしないと口移し」
「……あ、あーん」
「イイコ!」
押し込まれたスプーンが喉を突きそうで怖い。
「おいし」
「良かった!」
「クダリが作ったの?」
「うん」
「ありがと」
「うん、どういたしまして」
黙々と食べていたら完食してしまっている。私ホントに風邪かな。
「……なまえ、ぼく今日はなまえの言うことなんでも聞いちゃう」
ね?って私の頭をまた撫でながら言い始めたクダリを見る。
もしうつったら看病はしてあげよう。私はそう思って次はちゃんとクダリの手を掴んだ。冷たくて気持ちいい体温を一方的に熱で生暖かくしてやる。
「そばにいて」
「仰せのままにオヒメサマ」
なんちゃって。最終的に同じベッドに倒れこんで寝たけど、クダリに風邪はうつらなかった。
13.02.10

戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -