我君ヲ愛ス


クダリ君。私の隣の席の男の子。スクールで一、二を争う彼は女の子にモテモテの男の子。いくつもの彼を表す言葉。
「ねえ、なまえちゃん」
私のことを知らなくてもおかしくないと思っていた。
あなたが私のこと知ってるなんて思ってもみなかった。
「な、なに?」
「あのね僕今日教科書忘れちゃって」
「あ、一緒に見る?」
「ありがとう!!」
彼の笑顔で好きになってしまった私は単純なんだろうね。

「ごめんねまた今日も忘れちゃった」
彼は現国が嫌いなのだろうか、それとも先生でも嫌いなのだろうか。
あのときも現国、つぎも、そのまた次もというかあれからクダリ君が現国の教科書を忘れてないことがない。
ね、眠い。なんでこの時間に現国が。「ねえ」
『こころ』の説明をする先生の声が遠のいてきたところで、ちっちゃく私に声をかけてきたクダリ君。
授業中はほとんど話していなかったのに、どうしたんだろう。
とんとんっと人差し指でノートの端をつつく。
あ、クダリ君って割ときれいな字だ、でもすっごい癖がある。
『これどう思う?』
『これ』からクダリ君の書いた『こころ』の文字に矢印が伸びている。
急いで放り出していたシャーペンを手に取る。
『??』
そう書いてクダリ君を見れば、うれしそうにノートにまた何かを書く。
『だってホモじゃんwww』
くっと笑いをこらえるクダリ君。ああこんなふうにも笑うんだ。
『そういうものなんだよ』
きっとと書き足すと『www』と返ってきた。
『いいの?先生にばれちゃうよ』
『いいの』
『ねえ教科書に書かない?』
『いいの?』
『いいの』
教科書の余白に『ノート提出あるもん』と書く。
反対側の『( ̄◇ ̄ゞ』が愛しく見えた。

授業中以外、つまり声に出して会話をしたのはあの時以外はない。現国が始まり、教科書が必要になると自然に机を合わせて、手を合わせジェスチャーをするクダリ君。
『今日ね、ノボリに怒られた』
『どったの』
『今日、僕の嫌いな古典がある』
『(・・?』
『僕ら自分の苦手な授業入れ替わってる』
『え!?』
まさか真面目そうなノボリ君とそんなことをしているとは……思っても見なかった。
『後でちゃんと教えあってるよ、ノボリは数学苦手』
『クダリ君得意だもんね』
『まあね(゜▽゜』
どや顔をしたクダリ君と顔文字に私が『(゜ロ゜』と付け足す。
『でね今日は時間変更で入れ替われない』
確かに私達のクラスは今日、英語と古典が入れ替わっている。
『今日の古典の時間、ノボリのクラスは現国。ノボリ現国大好きだから』
『どんまいq(^-^q)』
『んもー(`Δ´)』

クダリ君は私のことを嫌ってはないんだろう。でもきっと私は告白なんてできない。

教科書の余白を文字で埋め尽くした私達が教科書の印刷の上に書き始めたころ。
先生が『こころ』のまとめに入ったころ。
『ねぇ、なまえちゃん好きな子いる?』
クダリ君が突然そんなことを聞いてきた。
『どうしたの急に』
『だって最近みんなそんな感じ』
『VD近いからじゃない?』
『なにそれ家庭内暴力?』
『バレンタインデーだよwww』
がたりとクダリ君の椅子が揺れる。
『Σ(´□`』
『それ可愛い』
『ありがと、で?』
『さあどうだろ』
またがたりと椅子が音を発てる。
『クダリ君は?』
『内緒』
……クダリ君今日機嫌悪い?
『ねえ』
『なに』
いつもより癖が強い文字が綴られる。
『月が綺麗ですね』
気づかないでね、クダリ君。まあきっとクダリ君は知らないんだろうけど。
『まだお昼だよ(・・?』
きーんこーんかーんこーん、ベタなチャイムで終わる授業。
「あのさ、さっきのどういう」
「内緒」
授業終わったら話さないクダリ君が珍しく話しかけてきたから、さっきのお返しのように笑って返してみせた私。(´ 3`)みたいな顔のクダリ君は納得いかないようだが、そのままクラスの男子に連れていかれた。
座っている私はばくばくと言っている心臓を押さえる。わりと緊張してたんだ、私って。

「なまえちゃん」
あのときみたいに、最初のときみたいに声をかけてきたクダリ君。
「あのね、今日も借りていい?」
「うんいいよ」
昨日の今日で恥ずかしいけれどクダリ君はわかっていないだろうから気にしないでおこう。
いつも通りの筆談をして、授業が終わる。
クダリ君は頭を上げたと同時に私の手をとり走り出した。
私は状況を把握できないまま引きずられるように走る。あ、いたっ!!腰を机でうった。前を走るクダリ君の背中は男の子だ。見とれながらも必死についていく私。結構クダリ君早いな。
渡り廊下の誰もいないところでストップしたクダリ君の背中にぶつかる。
「ごめっ」
振り向いたクダリ君は私に片手に持っていたクダリ君のノートを突き出された。
『僕、死んでもいいよ』
あれ、なんで知ってたの……。


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