ENDless


グロ?注意です。





「おはよう、なまえ」
目を開けた私の上でクダリさんが笑ってそう言った。
「おはよう」
クダリさんは私の隣に座って、にこにこと笑っている。
「クダリさん、今日仕事は?」
「なんのこと?変な名前」
「なんのことってクダリは」
さんだって、変なのと笑うクダリさんに首を傾げる。
クダリさんはサブウェイマスターって職に就いて……?
クダリさんは学生服を着ていた。あれサブウェイマスターってなに?
「ううんなんでもない」
「そ、ならいいや」
笑うクダリが私の上に立った。
「クダリ?」
「好き、ぼくなまえが好き」
クダリの手にはカッターナイフが握られていた。近くに通販の段ボールがある。ああ、それ開けたんだ。
ガムテープの切れ端がついた刃を握りこんだ手が私に向かって振り下ろされた。


「わ!!」
ばっと飛び上れば、トレインの中だった。
向かいにはクダリさん?
「すっごい勝負始めよう!」
どうしようもないままに私は腰のモンスターボールを手にとる。
「シャンデラ、おにび」
まだ私が手に取ったモンスターボールを投げていないのに、クダリさんがシャンデラにそう命じて、私は理解できないままに炎に飲み込まれた。


「あっつ!」
私は熱いお茶を手に持っていた。舌がひりひりしているのを感じる。
「ごめんね、大丈夫?」
「へ、あっはい」
「なまえって猫舌、かわいい!」
そういうと珍しくクダリさんが自分で淹れたお茶を飲む。
「ほらほらなまえ、ふーってして飲んで」
尻尾を振ってヨーテリーみたいなクダリさんが私に自分の淹れたお茶を勧めてくる。
「いただきます」
「うん!」
水面をふぅーと揺らして、火傷覚悟でごくりと飲む。
「おいしい?」
「はい」
多分。熱くて味を味わえてないからあんまりわかんないけど。
「どうかしました?」
「ううん、おいしかったならいいの」
にこにこと楽しそうに何かを待っているみたいに上機嫌だ。
「ん?」
目の前がおかしい、喉が痛い。
「やっと」
クダリさんが私を抱き締めてくる。
「ぼくだけのなまえになるんだよね」
耳元で呟かれた声がやけに耳に残る。痛みに負けて私は意識を飛ばしてしまった。


「寒いねえ」
隣のクダリに声を掛ける。寒いなあ、はあと悴む手に息を吹きかける。
「……なまえ寒いの?」
「大丈夫だよー」
心配そうなクダリについ条件反射のように答えれば、クダリが立ち上がってキッチンの方へ行く。
「クダリ?」
「ぼくがあっためてあげる!!待ってて」
「ありがと」
クダリはやさしいなあ、なんてキッチン越しにクダリを見る。お湯を沸かす音が聞こえてきてるからココアか何かだろうか。
わくわくしながら待っていればクダリが何かを持って私の背後に回ってきた。
「なまえ、目瞑って」
「うん」
私が目を瞑った途端体中が燃えるみたいに熱くなった。
前のめりになって倒れる。その拍子に見えたのはやかんを片手に私の方を不思議そうに見るクダリだった。
「なんで避けちゃうの、あったまった?」


「クダリさん!待って!!」
屋上のギリギリに立ったクダリさんはこっちをにこっと見る。
私は刺激しない様にちょっとずつ慎重に近づいていく。
「く、クダリさん?」
「見て、なまえ。すごく綺麗」
下を見下ろしたクダリさんは嬉しそうに目を細めてきて、私になんて見向きもしない。
ライモンの人間だらけの街並みを綺麗だと思うのは夜だけじゃないのかな……なんて。
そぉと手を伸ばしてこちらへ引っ張ろうとクダリさんの手を掴む。
今だ。そう思って引っ張った瞬間にぐいっと反対に引っ張られ、私は空中に放り出される。
びんと糸が張ったみたいにクダリさんの腕が私の落下を止める。
「あのね、なまえ聞いて」
「くだ、くだりさん!!たす、た、たすけ……」
「ぼくね、いつもこうしたかった」
「たすけて、くだ、」
嬉しそうにこの上ないくらいに笑ったクダリさんは私を見ているのか、それともほかの物を見ているのか……。
「ねえ、なまえ、今ぼくがなまえの命握ってるの。なまえここから落ちたら死んじゃうよね」
「くだ、クダリさんんん!いや、いややめ、あ、ああ」
恐怖で舌が回っていない気がしてくる。
「なまえ大好き愛してる」
ぱっと離れたクダリさんの手。


「クダリ、あのね」
抱きしめられる。その腕がぎゅって子供みたいに私を抱きしめるから、笑って私も抱き返そうとする。
「クダリ?」
ぎちぎちと力が強くなっていって、痛いとまで感じてしまう。
「くだり?いたいよ?」
「うん」
その細い腕からどんなふうに力が出ているのか、不吉な音が私の腕から聞こえた気がした。


がたんごとん、と近づく電車に黄色い線の内側で乗り込むために待っていた私。
背中を軽く押されて気がして、私は迫ってくる電車の前に飛び出してしまう。
「バイバイ、なまえ」
クダリさんが手を振っているのが見えた。表情は見えなかった。

何故かマフィアなクダリさんに銃を突きつけられて射殺されたり、新婚さんになってネクタイを直そうとすればそのネクタイで首を絞められてしまうし、はさみを渡せば切り刻まれて、食事をしようと誘えば内臓を引きずり出されて、プールに行けば溺死させられる。どんなに頑張っても私は何度も何度もクダリさんに殺されて。
ああ、もうだめかも。なんで私は……これは夢なのかな。


「うわああ!!」
「あれ、なまえ、おはよう」
その声にデジャブを感じながらもクダリさんの方に目を向ける。
ベッドの脇に腰掛けたクダリさんに「大丈夫?うなされてたよ」って私を抱き起こしてくれて力が抜ける。良かった、夢か。
「はあ」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
まさか、クダリさんに殺され続ける夢を見てたなんて言えないし。
「そう?」
クダリさんにもたれかかれば、抱き寄せられる。あったかくて、心地よくて瞼が降りていきそう。さっき起きたばかりなのになあ。
「大好き」
デジャブを感じるのと一緒に腹部に激痛が走る。眠気も一緒に吹っ飛んでしまう。
そっと視線をお腹の方に向ければ、包丁が深々と突き刺さっていた。
「なまえ、大好きだよ」
H25.04.16

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