アイムヒア


最近、ムウマがほうじょうの社に出現しているようですね。
ノボリさんがぽつりとそう私に呟いた。
ここ最近ではイッシュ地方もいろんなことがあり、マリンチューブが出来たり、バトルサブウェイに並ぶバトル施設が出来るらしかったり、街と街が開通したりしている。
その影響なのかなんなのか、ポケモンたちの生態系も変わってきていた。
今までは他の地方にしか生息していなかったポケモンが現れるようになったりしていた。
まあ実際のところ、ポケモンはまだまだ謎に包まれてるってオーキド博士も言ってるからな。アララギ博士も隠れていただけだとか、そういう仮説が立ってるってテレビで言ってたし。
「なまえ、あなたはもしかすると、その中の一体なのでしょうか」
「むう」
それはない。首をぶんぶんと横に振って主張しようとすれば、隣からお風呂上がりの色気三割増しなクダリさんがやってきて口を開く。
「確かにー近いしねー」
「むー」
改めて首を横に振れば、きょとんとした顔で私を見てくる。
「違うの?ジョウト地方なの?」
「むー!」
「え?それと違う?じゃあ、君はどこから来たんだろうね」
「ビスケットまた買ってきましょうか?」
「むう?」
そういえばあの後すぐに食べちゃったんだったっけ?
ノボリさんが神妙な顔で私に聞いてくるけど、残念なことにどう説明すればいいのかわからないから曖昧に返事をしておくことにした。
「行ってみましょうか、ほうじょうのやしろ」
「むう!」
まあほら、一緒にお出かけできるならいいかな。


ノボリさんの次の休日といっても、お忙しいノボリさんなのでその話をしてだいぶ経ってからだったけど。
私やシャンデラさん、オノノクスさん、というかノボリさんのポケモンさんは全員で私的にはピクニック気分で出かけて行った。
「なまえどうですか、何か思うこととかは」
「むう!」
楽しいです!
人間の時よりも表情を顔に出すのが上手くなった私は満面の笑みを浮かべて、ノボリさんに返事をする。ノボリさんも一回それは良かったと私を撫でようとするけど、はっとして首を振る。
「楽しんでくださるのは構いませんが、そうではなくてですね」
誤魔化されなかったかあ、だってどうせ見て回っても私自体ポケモントレーナーじゃなかったからほうじょうのやしろにさえ来たことがなかったのに。何かがあるわけがない。
シャンデラさんに手を引かれて、ノボリさんの少し怒ったようななんとも言えない咎めるような表情から逃げる。
くすくす笑ってるシャンデラさん。こういう時にやはりポケモンになったと実感する。
人間の時にはわからなかったはずのそんな表情豊かなシャンデラさんやギギギアルさん達。
私はポケモンらしくそれに混じるように草むらの上を飛ぶ。
ノボリさんは諦めたらしくそのまま、持参したレジャーシートを広げていた。
「お昼くらいに戻ってくださいね」
そんなノボリさんの声に答えるように私達は口々に返事をした。



なまえは楽しそうにポケモン達と遊んでいて、わたくしは寂しく思ってしまいます。出会ったばかりの頃は、わたくしの横に浮かんでいることが多かったのに……。などと思ってしまっているわたくしはトレーナー失格ですね。
シャンデラ達がみんなで手伝ってくださって作ったお弁当を隣に置いてわたくしは、心地いい木陰に座り込みます。

少しして戻ってきた皆とお弁当を広げて食べているとなまえではないムウマがやってきました。
「おや」
久しぶりの野生のポケモンに少し珍しそうなみなさんが何かを話しているようでした。
少しするともう既に半分ほどなくなっていたお弁当のうち、なまえの分がふわふわと浮かびあがりました。
「むー」
なまえがサイコキネシスでそのムウマに分けてあげようとしたらしく、そのムウマも喜んでいるようです。
「むー」
……。
そのムウマがこともあろうかなまえに飛びつくようにひっつきました。
……まさか、そんな。
それに対して嫌そうにするどころか自分で押し返して、まるで仲のいいカップルのように見えました。
苛立ちを感じた自分に驚きました。
もしかすれば、これが父親の気持ちなのでしょうか。
わたくしは自分のお門違いな嫉妬のような気持ちを切り替えるように食べ終わったお弁当を片付けることにしました。



身体を揺すられて目を覚ましました。
ああ、木陰が思いのほか気持ち良くてねむってしまっていたんですね。
「シャンデラ?」
何故かポケモン達が心配そうに覗き込んでいるのに頭の中に不安がよぎる。
「……なまえは?」
「しゃーん」
代表したようにシャンデラが首を振りながら鳴く。
「まさか……」
わたくしは辺りを見渡します。畑のおかけで見渡しやすく開けた視界にはムウマらしい姿は見渡りません。隠し穴や森の中なのでしょうか。わたくしは森の中へ入ります。
「なまえ!なまえー!」
すこし薄暗さを感じ、シャンデラを連れてくるべきだったと思いました。
仕方がありません。わたくしはそのまま森の奥へと走ります。
戻っている暇もありません、いくらここらへんのポケモンの気性が荒くないとはいえ、野生のポケモンです。なまえでも彼女は全くバトルが未経験なのです。わたくし以上にポケモン慣れしていないとさえ思わせます彼女がまともに戦えるとは思いません。しかももう、季節的にすぐ暗くなってしまうでしょう。そうしたら……。
不安そうな彼女がすぐに頭に浮かび、足を速めました。
「なまえー!」
森がいきなり開けました。
辺りにはたくさんのムウマ。ここはムウマ達の住処なのでしょうか。
「なまえ?」
ここにいるかもしれないと思い、見回しますが如何せん数が多すぎます。
「なまえ!どこですか!」
違う。違う。
いないのではないか。
どこを見渡してもなまえじゃない。
似ていても少し違って、先ほどとは違い、見分けられないのではないかと不安になってきます。
こんな不安を感じるなんて思ってもいませんでした。
ぜえぜえと息切れている自分に身体がなまってしまったのかと、自嘲的になります。
「むう」
微かに聞こえたその鳴き声は聞こえました。
小さくて、周りのムウマ達の声にかき消されそうなくらいの小さな声でした。しかし確かになまえのものでした。
頭を振って、不安と自虐的な気持ちを振り払います。
聞こえた方へ走りますが、辺り一面ムウマしかいません。
「……なまえ!」
いるはずです。
確かになまえの声だったんですから。
森の奥の寂れた社の前にムウマが、なまえが浮かんでいました。
彼女のほうへ急ぎますが、足がピタッと止まってしまいました。
社の前の彼女に一瞬少女の姿が重なったのです。
その瞬間本当になまえかまた不安になってしまいました。
「なまえ」
わたくしは絞り出すように名前を呼べば、なまえは振り向きました。
「むう?」
目を見開いたなまえがキョロキョロと辺りを見て、驚いているように見えました。
「むぅ」
もう暗くなっていたのにも気づいてなかったのでしょう、申し訳なさそうに鳴きますから叱られると思ったのでしょう。
「なまえ!」
駆け寄り抱きしめます。なまえは驚いていましたが、勝手に身体が動いてしまったのです。
出来るだけ配慮致しましたが、案の定いつものように嫌がるなまえを今回ばかりは離せませんでした。
わたくしは貴女がそのまま辺りにいるムウマ達に紛れて何処かに行ってしまうような気がしてしまったのですから。
H25.2.22

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