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「すん」と背後で鳴ったため後ろを振り返れば、クダリさん。近い近い近い。
すんすんとヨーテリーみたいに鼻を鳴らして、私の頭とか首のあたりの匂い?でも嗅いでいる。
……臭いのか、まさか。いや、でも私香水とかしないし、もしやクダリさん的には付けろって言いたいのか。クダリさんとすれ違った時よく甘い匂いするし。
私は相手がクダリさんだからか、セクハラまがいのその行動に全く目がいかず、クダリさんの奇行の理由ばかりを考える。
「なまえって臭くない」
心を読まれたのかと思ったが、ただ思ったことを言っただけなのか……な?
「女の子ってみんなおかしい、だって変なのつけちゃう」
「まあ女の子ですからねえ」
まるで私が女の子じゃないみたいな言い方になってしまった。
「なんで、香水とかつけちゃうの?」
「さあ、あんまりわかんないですよ」
「しかもそれが混ざってありえないことになっちゃってる」
「世界中の女の子的に回しかねないこと言わないでください、刺されますよ」
「……だって仕方ないでしょ」
むすっと下を向くクダリさん。それでも私とは視線が合ってしまうくらいにはクダリさんの背は高い。
どうしたものかと悩んでいれば、クダリさんの後ろを可愛いと人気の受付の女の子が通る。
その瞬間、唇をかんで耐えるような表情に変わるクダリさん。
私より大きいクダリさんがもたれかかるように私の方に寄り掛かり、ぎゅっと私の制服を掴む。
女の子はクダリさんに「こんにちはー」と愛想よく挨拶すると、クダリさんからの返事がないのを気にもしないで廊下を曲がって行った。
「ごめ、なまえ。しつ、ふぅ……むしつまで、い?」
執務室まで連れて行けって言ってるんだろうと思う。
「はい」と答えて、クダリさんの体をできる限り支えるように連れて行く。
ドアが閉まった途端力が抜けたように座り込んだクダリさんは、片手でぎゅうと口元を押えている。
「吐きそ……」
その顔は切羽詰まっていて心配になり、覗き込もうとすれば手を伸ばされる。
「ごめ、ごめ……ん……はあ……っ」
「いいですよ」
ぎゅっと抱き込まれる、私はそれを手伝うみたいにクダリさんの体を跨いでぴとりと体をくっつける。あ、すごい心臓の音。ばくばくいってる。
「ふっ、う……はっあ」
どくどく、ばくばく、心臓が一日分くらい動いてるんじゃないかって思いながら、背中をとんとんと撫でるように叩く。
「ぼく……匂いきらい」
荒い息をしながらそう言い放つクダリさんの声は嫌悪感でいっぱいだ。
「はあ」
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!」
声がだんだん大きくなって、私を抱く腕の力も比例するように強くなる。大変だっただろう、こんな職に就いたなら避けては通れないだろうし、あんな女の子の付けた香水でさえならなおさら。
「クダリさん」
「やだ、トレインに乗る女の子も、満員列車でその匂いが移ったスーツのサラリーマンもみんな、みんな嫌い」
あ、そっか私は事務職でしかもライモンに住んでて、香水つけないから、匂いがあんまりしないんだ。
「なまえはいい匂い」
「そうですか?」
確実にいい匂いじゃない自信はある。いくら事務とはいえ一日中働いた匂いが良い匂いなわけがない。
「香水?」
「違いますよ」
「そうなんだ」
疲れたのか、力無さげに笑ったクダリさんがまた手を伸ばしてきたので、いつの間にか離していた体をまた引っ付けた。

――――――

タイトルは身につけるってとこから来てます。匂いに弱いクダリちゃんかわいい。

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