はんぶんの優しさ


爆弾を食らって元々大したけがではなかったというか、痛みも吹っ飛んだ私はベッドから這い出る。氷嚢を熱さまシートに変えて間抜けながらもおでこに張り付けていざ行かん。
そしてシングルにノボリさんが乗ったのを見計らって、ノボリさんクダリさん兼用の執務室に押し掛けた。
いらっしゃいって迎え入れてくれたクダリさんは失礼ながら典型的なけが人相手のテンプレを言ってくれ、私を椅子に座らせた。
「で、あの話ってマジですか」
「あの話って、ノボリ兄さんが君のこと好きっていう?」
「……そうです」
なんではっきり言うんですか、恥ずかしい。
「うーん、兄さんは本気だよ?」
「……それは、はい」
「……兄さんのこと好き?」
「わ、わりと……うーん」
頭を抱える私に、たくさんある書類を片付ける手を止めたクダリさんが笑う。
「僕ね、兄さんのこと好きだよ。だから、なまえちゃんと付き合うのってすごくいいと思う。でもなまえちゃんが付き合えないなら無理することじゃないとも思うよ」
「……わかってるんですけど」
「それにまだ兄さん自分で告白してないしね」
まあ、そういわれるとそうなんですよね。
「でも、なんとなく何かしなきゃいけないのかなって……」
「真面目だね」
「クダリさんには負けますよ」
まだこんなにも書類を残しておきながら、こんなしがない駅員の話に付き合って……。
そう言えば、クダリさんが笑いを漏らす。
「な、なんですか」
「未来の義姉さんなったら大変だからね」
「クダリさん!!」
クダリさんってこういうことも言える人だったんですか。
「ごめんごめん」
「笑い事じゃないんですよ」
笑うクダリさんにからかわれてるのに気付いてむすっとなる。
「とりあえず助けてもらったお礼言ってきます」
「いってらっしゃい」
手を振って見送られた私はシングルから降りてくるはずのノボリさんを待つ。
うーん。考えてもどうしようもない。
ない頭で必死に答えを考えながらシングルトレインを待つ。
そうしたらいつの間にか着いたトレインからノボリさんが降りてくるのが見える。隣には可愛いOLさんがいて楽しそうに話している。
……。殴られた頭がまた痛みだした気がして、頭を押さえながらノボリさんに背を向ける。
あの人がお喋りをよくして、それは男の人でも女の人でもよくあることだってことくらい知らないわけじゃない。
でもほら、あんな告白まがいのこと言って人を頭痛するぐらい悩ませておいて自分は可愛い女の人とお喋りだなんて腹が立つ。
「なまえ?」
ノボリさんが気づいてしまったらしい。私は気付かないふりをして、その場を後にしようと関係者立ち入り禁止のエリアへ逃げ込む。
「なんかすごくムカツク」
「何がですか?」
「うわっ」
ノボリさんはいつの間にか隣に立っていた。驚きすぎて後ろに倒れそうになる。
「大丈夫ですか?」
それを腕で抱きとめたノボリさんはそれこそいつもみたいに笑っている。その笑いについ口から出そうとした文句はしわしわと空気をなくした風船みたいに萎んでいく。
「……助けていただいてありがとうございます」
「そのことでしたか、いえ構いませんよ」
いつも通りの愛想のよさそうな笑顔がまた癪に障る。
「では」
頭を下げてクダリさんに「やっぱり嘘でしょう!!」と怒鳴りに行こうと、踵をかえそうとした私の腕をぱしっと掴まれた。
「クダリには聞いたのですか」
にこりと笑ったノボリさんは私が恥ずかしくなる。ふつうこれで羞恥プレイを受けるのはノボリさんの方であるはずなのに。
「あ、あの!私のこと好きって本当ですか」
「……クダリに本当に聞いたんですね」
少し顔を赤くするノボリさん。今日1日で2回目だなあ。
「好きですよ」
いつもみたいな掴みどころのないような笑いではないノボリさんが熱さまシートを撫でて、どこかへ行ってしまった。
熱さまシートはすでにぬるくなっていた。

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杏里様、リクエストありがとうございました^^
「知らなかったの?」でリクをいただくとは思ってなくて遅くなってしまいました、すみません。

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