025


トウコちゃんとのお出掛けにわくわくとクダリさんの朝食と昼食を作って、クダリさんに置手紙をして鏡を見てよし行こうってところで体が揺らいだ。
いたたた。
「ぴーか?」
うーん、なんかおかしい。昔アニメの黄色い人気者がいっぱいの回を見たときに聞いたような声が聞こえた。私の視線が極端に低い、周りに私が精いっぱいおしゃれしたクダリさんに買ってもらった服が私を中心に落ちている。
「ぴかぴか」
次はポケモンになっちゃった、なんて言わないよね?
視界が低くて、自分の手が黄色に見えても希望を忘れず鏡の前まで行った私は嫌でも現実を見なくちゃいけないらしい。
「ぴかぴ?」
さとしって言ったら本当にこう言ってしまうことに感動を覚えつつも、トウコちゃんにどうにか伝えなくてはととりあえずクダリさんを起こすことにした私。しかしまあこうも奇想天外、複雑怪奇なことばかりだと慣れてくるものだね。
四足歩行ができなくて、階段を上がるにも一苦労。
アスレチックっていうか何かの遊具で遊んでいるぐらいのつもりでやっとのことクダリさんの寝ているベッドにたどり着いて、潜り込む。
「ぴーか!!」
「……う、んん」
「ぴか、ぴっか」
ゆっさゆっさとゆすってやっても起きないクダリさん。10万ボルトしてやろうか、そう思えばバチと頬袋に違和感。おおこれがピカチュウなんだ。
「ん、ん……なまえ……?」
「ぴか」
「なまえ!」
がばっと起きたクダリさんに弾かれるように後ろにひっくり返る。このやろう!
「なまえ!なまえー!!」
「ぴ」
ここだよって伝えるより早く、クダリさんはベッドから飛び出してリビングへ行ってしまう。
「ちゃあ」
残された私の鳴き声は寂しく響く。しかたないので、後を追えば残念そうな顔で私の書置きを読んでいるクダリさん。
「もう行っちゃったんだ……」
ここにいるんだけどな……。寂しそうなクダリさんに声をかける。
「ぴかあ」
「……あれ?ピカチュウ?なんで?」
「ちゃあ」
「……迷子かなあ?」
そう言ってモンスターボールを使って、トレーナーがいるか確かめるクダリさん。勿論ながら私にトレーナーはいない。しいて言うならクダリさんかな……ってちょっと思う。
「トレーナーいないの?」
「ちゃあ」
話せそうにないなあ……どうしよう。
「そっか、そういえばなまえピカチュウ好きだったよね……」
もしかして、少し前にテレビを見てた時に私がピカチュウかわいいって言ってたことだろうか。クダリさんのことを見上げると、優しそうな顔をしていてドキドキしてしまう。
「よっし、ピカチュウここにいなよ。なまえの手持ちになって!」
「ちゃあ」
どうしようもないから、いつ戻るかっていうのも分からないし……と私は二つ返事で答えた。
「じゃあ決まり!なまえが帰るまでに綺麗にしてあげる」
ね!って笑ったクダリさんにクダリさんマジ天使と漏らしてしまった。私の口からはぴかちゅと鳴き声しか出なかったけど、良かった。


「君、メスみたいだね」
「ぴっかー」
そりゃ、まあね。メスじゃないと困るかな……。
「迷子なのに綺麗だし」
「ぴかぴか」
「メスだから、自分でしてるの?」
ふふと笑って、私の前に平ぺったいお皿にミルクを置いてくれる。人間としての何かを試されている気がする。
「飲まないの?」
う……仕方ないよね、うん、こんな表情されて飲まない鬼畜がいたなら私がかみなり食らわせるし。ああ、やだなあ、クダリさんに私ってばれたらどうしよう。
ぺろっと舐めれば、甘い。なんで?
「えへ、モモンの実混ぜてみたの。おいしい?」
「ぴっか!」
「そっか、良かった!!甘いの好きなんだね!」
「ぴかっぴ」
「なまえみたいだね!」
ちゅと鼻と鼻をくっつける仕草にきゅんとする。私にも十分甘いと思うけどポケモンになると一層べたべただな。さすがに、赤ちゃん言葉にはならないみたいだけど。
「お風呂は……必要なさそうだね。おいで、そのぐらいのなら確か昔のキバゴの服あるんだー」
みんな大きくなっちゃって着なくなっちゃったんだよねって言葉に私が知らないことがあって、確かに外でも時々ちっさいポケモンが着ていたなって思い出す。
「きっとノボリの子のが似合うよ。それからリボン探してあげる。うんとオシャレしてなまえに見せてあげようね」
「ぴっか」
私なんだけどね。
「ぴぃかっちゅー」
階段という難関で私はクダリさんに置いていかれて、仕方ないから鳴いて振り向いてもらう。
「あれ?」
私の元までもう一度引き返してくれたクダリさんが私を抱き上げる。
「ごめんね、上れないんだね」
「ぴかあ」
「ちょっと待ってね、お姫様」
胸の位置で抱えられてクダリさんを見上げていれば、動く振動が心地好い。
「キバゴの服、今はオノノクスなんだけどね、ノボリはメスだったから可愛いの買ったんだー」
「ぴかー?」
「はい、とーちゃく」
下ろされてしまいなんとなく惜しい気持ちになる。
「ちょっと待ってねー」
クダリさんは上機嫌で私がまだ弄ったことのない押入れを引っ掻き回す。
「あった!!じゃーん!!」
私に見せるように広げた服はクダリさんが私に最初に買ってくれたのと変わらないくらいフリフリだった。
兄弟なんですね、ノボリさんも。



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