重要なのはタイミング


「なまえさま、大丈夫ですか」
私の書類を持とうとしてくださるノボリさん。
「大丈夫ですよー」
「ですが、重いでしょう、持たせてくださいまし」
「ボスー!シングル出発しますよー!!」
私はちらっとノボリさんを呼ぶ同僚を見て、ボスを見る。
「ほら、呼ばれてますよ。行かなくちゃ」
「……いって参ります」
ノボリさんが首を少しだけ下げて行ってしまったところ見計らうように同僚がやってくる。
「なんや、なまえまたかー」
「気付イテナイ訳?」
「気付いてますって」
あそこまであからさまにアピールされまくっていれば、わからないほど子供でもないし。あれ以上のことなんてざらにある。クラウドさんは多分それについて言ってるんだろう。
「ボスノコト嫌イジャナインダロ」
「それはそうなんですけど」
「じゃあなんかあるんかい、好きなやつがおるとか」
「いませんよ、べつにー」
「まあ、ええけどな。いろいろあるんやろうし」
「女ッテノハ難カシイナ」
ぽんぽんと私の頭を軽くたたいて、同僚はどこかへ行ってしまった。
別にノボリさんのことが嫌いなわけでもなんでもないんだけどな。


「只今帰りました」
「あ、お疲れさまです」
「なまえさま、あの」
「あ、ボスすみません、私次のダブル乗らないと」
何かを言おうとするノボリさんから逃げるみたいに私はトレインへ向かった。
だってしがない鉄道員の私がサブウェイマスターであるノボリさんとそういう関係なんて恐れ多い。というか他のノボリさんファンに殺される確実に殺される。


「なまえさま!!」
「なまえドコカ行ッタヨ」
「……」
「何カアッタンデスカ?」
「いえ、なにも」
出て行ったノボリさんを見て私は胸をなでおろしながらキャメロンの隣の机から出てくる。
「ありがとキャメロン」
「何モナイトイウカなまえガ一方的ニ避ケテルンダヨナ」
「仕方ないじゃん」
「マア頑張レヨ」
「うーん、うん」
「逃ゲ切レナイトハ思ウケド」
「うー」
最後に落としてくる同僚に恨みがましい目を向ける。
だって仕方ないでしょうが、ノボリさんとの恋愛イベントよりこれから先の私の未来の方が重要なんだから。
私はまだ仕事のあるキャメロンに見せつけるように部屋を出る。
「じゃ、頑張れー」
「手伝ッテクレテモ」
キャメロンのセリフを最後まで聞くことなく私はドアを閉めてやる。


キャメロンのこと手伝ってくるべきだったかも。もしくは私が帰る際に終点間際のホームをさっさと出ればよかった。
私はノボリさんに呼び止められてしまった。
「なまえさま」
「な、なんですか……」
「どうして、最近わたくしを避けるのですか」
「さ、避けてないです!!」
ここで否定しなければ私の机に明日マッギョがたくさん積みあがっていてもおかしくない。終点間際といえどノボリさんファンも受付の子もたくさんこのギアステーションに残っている。危険は迫ってる。
「では」
電車が着くことを教える音とアナウンスが聞こえる。黄色い線より下がれって。
「わたくしが今からいうことをちゃんと聞いてくださいまし」
「は、はあ」
がたんごとん、と電車が近づく。ノボリさんの真剣な顔。ごくりと息を飲む。
「わたくしは―――です!」
……。聞こえねええ。
大事なとこで電車が横ぎった。ノボリさんならダイヤぐらい把握してたはずなのに……。
本人も微妙な表情だ……。
私はもう今のうちに逃げるしかないと、地上への階段に体を向ける。
明日からノボリさんと気まずいのとマッギョが積みあがった机を天秤に掛けるとわずかにマッギョの方が少し勝ったのだ、本能的に。
急ぎ過ぎたからか、私は階段を踏み外す。
「うあっ」
ああ、明日出勤さえできないかも。バランスを崩して後ろに倒れる私を何かが止めた。
「危ないですよ、なまえさま」
見上げる形の私ににこりと笑うノボリさんにどきっときてしまう。
「あの、聞こえなかったかもしれませんが、わたくしあなた様が」
「ノボリさん!!なまえさん!!やっと……」
階段のところで泣きそうな顔のカズマサ。ああ、やっと来たんだ。今日はどこまで行ってきたのやら……いくら午後からでも遅すぎる。
またもノボリさんのセリフは聞けずじまいだけど、泣きそうなカズマサを適当に慰めて私はギアステーションを後にした。

次の日、机の上にはマッギョではなく真っ赤なバラがあって頭を抱えた私を冷かしてきた同僚達に、とりあえずセッカに行って一体ずつロッカーにマッギョを突っ込んでやろうと決めた。
H25.03.22

戻る


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -