夫婦の日


ドアを開ければ既にワタクシを待っていたなまえについ口角が上がりそうになり、ぐっとこらえて「只今帰りました」と言えば、嬉しそうにワタクシから鞄を受け取ります。エメットにも言われましたがよくできた嫁でしょう。
「お帰りなさい、インゴさん」
甲斐甲斐しくワタクシのコートも脱がせてくださり、そっとクローゼットの方に向かう彼女を見ていると自分が幸せ者だと何度も自覚します。
そう彼女の後姿を眺めていればぎゅっとワタクシのコートを抱きしめたのです。
なまえがはっとしてそれを隠すように慌ててコートをしまいました。
もしや、さびしくさせてしまったのでしょうか。
その場面を見て勝手に気まずさを感じ、リビングに先に戻って見ていないフリをしてしまいました。
「今日は和食にしてみたよ?」
「……なまえ」
「はい、なんですか」
「いえ……なんでもありません」
にこにこと笑うなまえの笑顔も先ほどのシーンを見て、無理をしているのではないかと思ってしまいます。
なまえのおいしい夕飯もそのせいで存分に味わうことができませんでした。
「インゴさん、もしかして、今日の夕飯おいしくなかったですか?」
「まさか!!そんなことありません!!」
「あ、そう……?」
いきなり大声をあげてしまったワタクシに怪訝そうに見てくるなまえ。
このままではいけませんね。そう思い、なまえに断って電話を掛けます。
数回のコール音をなまえの疑問に満ちた表情を向けられながら聞けば、相手につながった音が聞こえて眠そうなエメットの声が聞こえました。
『なに、インゴ?』
「明日ワタクシ休みますから」
『な、なに言ってんの!?』
「では、そういうことなので」
『ちょ、ま』
聞けば仕事を押し付けられかねないので電話どころかライブキャスターの電源も一緒に切らせていただきます。
「インゴさん!?なにしてるんですか、エメットさんが大変じゃないですか」
「……おや、ワタクシの前でほかの男の話ですか?」
「ち、ちが」
「最近ろくにあなたにかまってあげられなかったでしょう?」
その言葉にピクリと反応したなまえ。
耐えるような表情や、顔を赤く染めたりと表情がくるくる変わった後、ぼろぼろと涙を流し始めてしまいました。
「な、名前?」
「い、イン、インゴさ、んは……ずる、ぃで、すぅ、ひっく」
どうすればいいか分からなくなりぎゅと引き寄せれば一層泣き出すなまえ。
あまり慣れていませんが背中に手を回して、ずっとなだめるように撫でてやれば落ち着いたようです。
ソファーに並んで座れば、俯きっぱなしのなまえ。
「す、すみません……」
「いえ」
「……ちょっと、ちょっぴりさびしくて」
「すみません」
そっと距離を詰めればこてんと寄りかかってくる。
「それから、すこしむかつきました」
「Why?」
「だって、私ばっかさびしくしてたみたいで」
じっをワタクシを見てきたなまえ。
「まさかお前、ワタクシがなにもおもってないとでも思っていたんですか?」
「ええ?」
「まったく」
驚いているなまえを抱き上げれば、まあ当たり前ですが暴れてきます。
「落としますよ?」
「おとっ!?……ま、まってください!!なんで」
「分かりませんか?」
「分かりません!!」
「夫婦ですから、当たり前のことをするんですよ、今から」
初めてのときから変わらないうぶな反応でしたが、耳元で「ソファーがよろしかったんですか?」なんて聞いて差し上げればぎゅっと首に手を回してきました。
本当に……可愛い人ですね。
13.02.02

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