新羅の家に着いた俺は、治療の前にくどくどしい説教をされていた。無論、新羅にだ。

「仕事ならともかくね、僕のセルティをこんなパシリに使わないで欲しいな!」
「じゃあ来なきゃよかったじゃない。呼んだけど絶対とか言ってないんだけどねぇ」
「せっかくセルティと深夜の甘い空気に酔っていたのにぐぼぇあ」

口止めなのかうるさいからなのかは真意はわからないが、セルティの影が新羅の顔を覆った。もがもがともがいているが、心なしか嬉しそうだ。変態め。

「ねぇ、それ呼吸できるの?」

カタカタと器用にPDAに入力し、それを俺に見せた。

『当然だ。それより私がお前を迎えに行ったのは静雄が変だと書かれていたからだ、勘違いするな』
「それをちゃんとこの変態に説明してやんないと。怒られるのは俺なんだからさ」
『お前にはたまにはシッカリと怒られることも必要なんじゃないのか?』

シッカリと怒ってるというより、ただの八つ当たりに感じたんだけどなあ。

「というか早く治療してよ。じゃなきゃまたセルティ借りることになるよ、新羅」
「……わかったよ。それと静雄もなんとかしないとね」いつのまにか影に解放されていた新羅は苦笑いを浮かべながら医療器具を用意していく。
麻酔を打たれながら俺は愚痴るように言葉を吐き出した。「本人が同じ部屋にいるのに言うのもなんだけどさ」
「なんか放心状態だから別に構わないと思うよ?」
「あのシズちゃんが、俺のこと大嫌いなシズちゃんが!!まあ俺も嫌いだけど。俺のために怒るとかマジキモい!考えらんない!!」
「臨也…静雄を何だと思ってる訳?彼だって普通の優しさは持ち合わせてるでしょ。はい、次は縫うからね」

優しさ?シズちゃんに?そりゃあるでしょうよ、俺以外の人にはね。チラリと部屋の隅で煙草を吸う彼の姿を確認する。ほら、こんな色々言ってやってるのにガンのひとつも飛ばさないなんて!ギネス記録だよ!!ああ、気色悪い。

「本人に聞くのが1番早いと思うけどね僕は。はい、次は包帯巻くから動かないでねー」
「新羅……なんか気持ち悪くなってきた」
「気分が?静雄が?」
「両方」

包帯をクルクルと器用に巻かれながら、やっぱりシズちゃんが気になり何度も見ていると不意に顔を上げたシズちゃんと目が合ってしまった。

「……何だよ」

あ、喋った。やっと放心状態から抜け出したらしい。新羅もそれに気づいたのか手招きをしてシズちゃんをこっちのソファーに呼んだ。ゆっくりとシズちゃんはセルティの隣に座る。

「で、シズちゃん。さっきの意味不明な台詞を俺にもわかるように説明してよ」
「知るか。ノミ蟲は跳ねてるからノミ蟲なんだろーが」
「何でそれが助ける理由になるかわかんない」
「だから、知るか!俺だってよくわかんねぇーんだよ!!」ダンッとテーブルに振り落とした拳で、嫌な音を起てて大きなヒビが入り、割れた。新羅は表情を崩してないが後で黒い笑顔で俺に普通に請求書を送り付けてくるだろう。

割れた半分のテーブルにセルティは皆に見えるようにPDAを静かに置いた。

『臨也が元気な状態じゃないと嫌なのか?』

「いや、死ねばいいと思ってる」

「俺もシズちゃんが死ねばいいと思ってる」

セルティは少し考える様子を見せ、また軽快にキーボードを打った。

『じゃあ、臨也に怪我をさせた奴に怒ってるのはどうしてなんだ?本人も言ったみたいだが、死ねばいいと思ってるほど嫌いなら、別にいいんじゃ…??』

そうそう、その通りだよセルティ。実に正しいことを言ってるよ。あの時二人揃って袋だたきすればよかったのにとは思わないけどね、俺が奴に負わされた怪我で怒るなんてそんな義理はないだろって話。

「……ノミ蟲を殺すのは俺なんだよ!つーか手前もなぁっ、俺以外の奴に怪我なんかさせられてんじゃねぇよ!!」
「…………………ハァ?」
「手前を殺すのも、手前に怪我させんのも俺だけだ!邪魔する奴ぁ殴るに決まってんだろ!」先程までの放心状態が嘘のようにシズちゃんは吠えだした。
数分の間でやっと頭の整理がつきましたって事?自分の考えなのに何ですぐわかんないんだよ。一回頭の中を新羅に見て貰えよ。メロンパンとか出てくんじゃないの?カピカピのやつ。

て、いうか……。

「ふぅん、なるほど。静雄はジャイアニズムなんだ」
『??』
「ジャイアンみたいってことさ。俺のものは俺のもの。自分のものは人に手を出して欲しくないんだよ」

――最悪、最悪、最悪。
何がってそりゃ新羅の言葉を聞いてやっと自分が何てことを言ってしまったのか理解して、耳を真っ赤にするシズちゃんとか。それより先に理解してつい顔を隠してしまった俺とかね!

「……シズちゃんのものになった記憶なんてないんだけど」
「そ、そういう意味で言ったんじゃねぇ!!」

だったら顔真っ赤にして照れるなよこの単細胞!メロンパン!らしくない。こんなに心に余裕がなくなるなんて俺らしくない。ああ、もう嫌いだ!俺をこんなにおかしくするシズちゃんなんて、死ねばいい!
















END.




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