思わずドスンと自動販売機を手から滑り落としてしまう。

「本当にシズちゃんには最低なことばかりしたよ、凄く反省してる。逮捕された時もさぁ心が痛んでたんだよ……」

混乱する静雄に畳み掛けるようにつらつらと謝罪の言葉を吐き出す。もう、まだ夢でも見てるのかと疑うくらいに。

「ね、だからさ…許せとは言わないけど仲良くしよう。俺、シズちゃんのこと嫌いじゃないよ。……シズちゃんはどう?俺のこと、」

カチリ。
静雄の脳内が先程の夢を思い出す。――やめろやめろやめろ。それ以上何も言わないでくれ。じゃないと、じゃないと!

「俺のこと、スキ……?」

声にならない声。
心の中で静雄は叫んだ。
それは絶対口にはできないけど、代わりに思い切り臨也の細い腰を引き寄せ抱きしめた。


「シズちゃ……」
「うる、…せぇ……!」



――ノミ蟲が。臨也が悪いんだ。素直になんかなるから、そんな目で見るから、俺のことを、まるで、まるで。「もう…手前、二度と俺を見るんじゃねえっ……」

まるで、俺のことを好きだという目で見つめるから――

















「………お、…静…静雄!」

パチリと。あまりに綺麗に瞼を開いたものだから新羅は驚いて情けない声を出した。
当の本人は些か惚けたような表情をしていた。それに気づき新羅はキャップを開け、ミネラルウォーターが入ったペットボトルを渡す。

「……サンキュ。で、なんで俺はここにいんだ?」

キョロリと周りを見渡せば、そこは見慣れた高級マンションの一室――新羅の部屋だった。

おかしい。確かに俺は今、街中にいたはずだ。

「……寝ぼけてる?たまたま会った君達、あ。トムさんに、静雄が珍しく泥酔してるから頼むって言われたんだよ。何かあの人は用事あるみたいだったから僕に頼んだんだろうけど。……って静雄?聞いてる?オーイ静雄ー?」

――ってことは俺は夢の中で起きてそれを現実と勘違いしてたのか。

良かったような、残念なような。二つの感情が入り乱れる。
あんな夢を見るなんてどうにかしてる。

ノミ蟲が素直になって、嫌いじゃないよと言って。俺があろうことか欲情し奴を抱きしめる夢なんて。

「静雄?大丈夫?」

ああ、イライラする。
どうしようもねえくらいに。

「…ちょっと新宿まで行って臨也の野郎でも殺してくる」

だから早く会いに行こう。
それで早くぶっ殺さないと駄目だ。じゃないと、それより先に……抱きしめてしまいそうだから。


静雄は赤く染まった顔と耳を隠すように颯爽と新羅のマンションを去るのだった。




END.

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