――理屈っぽい奴は嫌いだ。何が言いたいのかよく解らないし、何よりウザったい。そう、悪い意味で良い例をあげるとしたらいつもピョンピョン俺から逃げるノミ蟲みてえなあいつ。

あいつが素直になるなんて想像もできないが、もしそうなったら俺はどうすりゃいいんだ?
あの細い身体を引き寄せて猫っ毛の黒髪に手を――




「…静雄?起きてっか?」
「……あ、すみません」

ドレッドヘアーの先輩、田中トムに声をかけられ、静雄はまどろみの夢の世界から目を醒ました。
今日は特にこれといった取り立ての仕事もなく、デスクで書類整理をしていたらいつの間にか寝てしまったようだった。

「慣れない仕事させちまってなんか悪かったなあ。さ、昼だから飯食いに行こうや」

仕事中にうたた寝してたことを咎める様子もなく、いつも通りに接してくれる。そんな優しい先輩に感謝しながら静雄は改めて謝ったのだった。


会社を後にして、地元のチンピラ風の二人は行き先も決めずに池袋の街中を緩く歩いていた。空腹だけが募り、隣を歩く男がキレださないか冷や冷やとしながらも。


「んん、やっぱコッテリ系が食いたいかな…」
「じゃあ駅前のラーメン屋に行きますか?」
「いやお前はどうなのよ」

俺はトムさんに合わせるんで。居眠りしてしまったし、当然っす。と、静雄は名前通り静かにそう告げた。
トムはいつもこんな感じに大人しければなんも問題ねえのになあ…と苦笑しながら足を駅前へと向け歩きだす。

「じゃあ、そこにすっか。サンキューな。明日の昼はお前の好きな所に行こうや」
「ッス」

たわいない世間話をしながら歩く、歩く、歩く。
その間に静雄は朦朧と覚えてる夢を思い出していた。

フワリ。

――クセェ。あぁ、あいつの匂いがしやがる。

静雄は一瞬、夢を思い出して自分の嗅覚が反応しているのだと思っていた。しかし、鼓膜に響いた声によって現実だと理解する。勢いよく後ろを振り向けば、いたずらな笑みを零す臨也がそこに居た。

「やあシズちゃん。ご機嫌はいかがかな?」
自分が静雄の前に現れることでキレるということを理解しているくせに、臨也はその言葉を口にした。
元から挑発だとわかっている。静雄は近くにあった自動販売機に手をかける。と、同時に彼の上司は慣れっこなのか直ぐさま数メートル離れた。お腹は空腹を訴え鳴いたが、もはやそれどころではない。

「ねえシズちゃん、ちょっとその自動販売機を降ろしてよ」
「あぁ!?うるせぇよ!!」
「君の声の方がよっぽど騒音なんだけどねぇ…まあ、とりあえず話したいことがあるんだ」

顎に手を当てて、いかにも困ってます。なポーズをとる臨也。静雄の顔に血管が浮き、マジギレしそうになる一本手前にも関わらず、軽やかに臨也は自動販売機に手をかけている彼に近づき……
眉を八の字にし、か細い声で、「今までごめんね」と耳元で囁いた。

――ご め ん ね ?

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