──でも、
そんなこと有り得ない。

「そうですねぃ、その通りでさぁ」

巫戯気たようにそう言えば、土方は抵当に相槌をうった。
特には深く追求はしてこず、再び小屋の中には静粛が訪れた。


ザアザアと雨音が眠気を誘う。うつらうつらしていたら、目の前の男は不意に思いがけない言葉を発した。

「──総悟、服脱げ」

「──は、あ!?」

「濡れてんだろ?」

「あ…ああ!?ぬ、ぬ濡れてなんかっ……」

「…濡れてんじゃねえか。嘘つくな」


ぴとっと土方は俺の服を触った。
一瞬身体が強張ったが、
「風邪引くから、早く脱げって」

「……あ?」

思わず拍子抜けした声が上がる。ドキンドキンと心臓が痛いくらいに早鐘を打つ。

どうやら…
俺の勘違い。

そうと分かり、かあッと顔が熱くなるのが分かった。


「あ、ああ。そういうことですねぃ」

あ、焦った。
ふう……と深く溜め息を吐いた。

「それ以外に何があんだよ?」

首を傾げてそう問うてくる土方にギョッとする。まさか言える訳がない。

"卑猥な行為"をされるのかと思ったなんて。

「まあ…なんだっていいじゃないですかぃ」

──冷静になんなきゃ。下手にテンパって堪るか畜生。

五月蠅く高鳴る鼓動をなんとか抑えようと、深呼吸を二、三回繰り返す。

「何だよ、気になんだろ」

「気にしないで下せぇ。……間違っただけですから」

「間違った?何と」

眉間に皺を寄せ、真直ぐこちらを見て来る。
……ドキン。

嗚呼、もうなんでアンタそんな顔なんだと舌打ちをしたくなる。

「いや…間違ったというか、勘違いしたというか」

眼を合わせていられなくて、フイと逸す。
耳障りな心音が憎らしい。

「だから何と?」

言える訳ねーだろと心の中で突っ込み、重たくなった隊服の上着を脱いだ。
ひやりと寒気がする。

「しつこい、馬鹿土方。うんこー」

「誰がうんこだ!!…てめぇ、今何歳だコラ。昔みたいなこと言いやがって」

呆れたように溜め息をつき、土方はスカーフを抜き取った。
骨張った鎖骨が覗き、思わず視線が集中してしまう。


──駄目だ──


ブンブンと頭を振り、やましい思考をなんとか追い出す。







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