「アンタの後ろの棚と、その周辺見て見なせぇよ」
俺がそう促すと、土方さんはゆっくり後ろを向いた。
どんな反応をするかは大体予想はついているが…。
あぁ、と含み笑いをして土方は棚の中から小さいボトルを取り出して、俺に確認するように見せた。
「こういうもんの事言ってんのか?何だよこれくらい」
タプタプとボトルの中の透明な液体が波打つ。
余裕な顔してる土方にイラッとした。
「…まあ、それくらいは平気ですけど。俺はその…足下にある道具のことを言ってんでぃ」
男性器に似つく黒々しい物体等々を指差せば、また軽く鼻で笑われた。
「だから、これくらい普通だろ。変態的な性癖とは言えねぇって」
「あ〜土方さんは変態だからそれが普通に見えんでさぁ、絶対。普通人間の俺には理解できねぇ代物ですぜ」
「上等だコラ。…つぅか、これらはテロリスト達の私物じゃねえよ。武器押収した時にはなかったし。多分、そこら辺の輩が持ち込んだんだろ」
はあ?
そこら辺の輩が?
はてなマークが何個か頭の上に出現する。
土方の言ってることがいまいち分からない。
「いったい何のためにそこら辺の輩が持ち込むんでさぁ、変だろィ」
土方は眼をぱちくりさせ、少し間を置いて苦笑いをした。
「お前、原田達とAV見たんだろ?大体予想できねぇのかよ」
「できねぇから聞いてるんでぃ」
小馬鹿にする様に笑ってる土方に少し、いやかなりイラッとする。
「……ヤるためだ」
「はあ?ここで?」
土方は煙草に火を点けながら首を縦に振った。やはりいまいち分からなくて、再度問うてみる。
「…なんでわざわざここにソレを置いてヤりに来るんでぃ」
家でヤればいいのに。わっざわざこんな辺鄙な場所に来てすることはないと思う。面倒くせえ。
しかもこんなに汚いのに。
呆れた様に溜め息を吐くと、淡々と奴は応えた。
「いつもと違う場所で興奮する。声を思いっきり出せる。青姦する時近くに道具があって便利だ。アブノーマルなプレイもし放題──ってなもんだろ」
「……」
「………」
「…………」
「……………オイ?」
ぴくりとも動かない俺を見て、土方は俺の頭をパシパシと叩いてきた。
その手を軽く振り払い、顔を背ける。
雨に濡れる硝子窓に映る何とも言えない自分の顔。
──多分、今俺の顔は紅潮しているだろう。
「……やっぱ俺には充分変態的」
「そーかよ」
ふー…と紫煙を吐き出す土方の唇に眼がいく。高鳴る鼓動は、嘘ではなく。
不本意だが、土方の言葉にこんなにも反応してしまうとは。
擁するには、目的をもって来る以外滅多に人がこないということ。
だからアブノーマルなプレイもし放題──…
「──総悟?」
土方は、知っているのだろうか。
俺が卑らしい眼で自分を見ていることを。
白久四十考えているのはアンタのことだってこと。
「土方さんは、今好いてる奴はいるんですかぃ?」
「……何だよ突拍子もねえな。あー、いねえよ」
「まあ、アンタが好きでも相手が嫌がると思いやすけどね」
「んだとゴラ。そういうお前はいねえのか?」
普段なら絶対しない。こんな会話。
けど、此の場所が、この雨が。何処か俺をおかしくさせるようで。
「さあ……どうでしょうねぃ。俺ぁ、アンタ見たいに女にはもてませんし」
クックと喉の奥で笑い、煙草を俺に向けながら低いトーンで話し出す。
「俺だってもてねえよ。なんたって武州からきた芋侍だ俺らは。女の口説き方さえ、たどたどしいさ」
──それでも。
アンタには姉上が居ればそれで良かったんだろう。
歌舞伎町のケバい女、捕まえる必要なんてそりゃないさ。
あの人はそんなのに劣らず美しく輝いていたのだから。
けど、もう
その美しい人は
いないのに。
何度俺は姉上に謝ったんだろう。
気付けば、墓に幾度も訪れ手を合わせ、幾度も武州に舞い戻った。
赦して欲しくて。
赦されないこの想いを、赦して、欲しくて……。