「もしもし、沖田さん?」
「俺じゃなかったら誰なんでぃ。お前の携帯ディスプレイには俺の名前出ねえのか」

山崎ならあり得るな。足元のゴミ箱をカツンと蹴飛ばす。
俺は病院を出てかぶき町へ来ていた。理由は特にない。気持ちを落ち着かせるために
歩き回っていたらかぶき町までたどり着いたまでの話だ。

「ち、違いますよ!たまに沖田さんの携帯で土方さんとか、その逆もあったりするから聞いたんですって!!」
「ふーん、へーえ、そーう」
「今月残金やばいんでもうミントン折るのとかはやめて下さいねっ……ね??」
「何だよ、この間折ったやつちゃんとガムテームで直してやったろぃ」
「一振りしただけでまた真っ二つに折れました。俺の心も折れました」
「別に上手くねえんだよ折るぞ」
「すみませんでしたあああああああああああ!!」

電話の向こうで90度にお辞儀する山崎が目に浮かび思わず声を出して笑う。

「と、ところで」
「あん?」
「どうでした……?」
「異常なし。金が無駄になっちまった」

今さらだが、嘘をつくのが上手くて良かった。何の抵抗も罪悪感もない。
慣れてしまった。呼吸をするのと同じくらい自然なものだ。

「なら良かった、心配しましたよー」
「勝手に余計な心配して馬鹿でさぁ。あと、俺ちょっと帰るの遅くなるから」
「ええ、分かりました。じゃあご飯はラップしとくんで」
「んー、サンキュ」

それを最後に通話を切らせた。耳元で機械的な音が繰り替えされている。
無気力にボーっとして視線の焦点を合わせられないでいた。嘘はつける、言葉だけなら。
けれどこれからどうしていいか分からず、立ち尽くすしかできない。

医者の言葉が頭の中をぐるぐる駆け巡る。

姉上の顔が浮かんだり消えたりしている。

想像の中の土方が絶望した顔を浮かべている。

強い頭痛に思わず蹲って頭を抱えてしまう。
呼吸の速度が速まって行き、くらりと眩暈がした。
――あ、やばい。
落ち着かないと。過呼吸を起こしそうだ……。
何か飲み物でも買ってこようと腰を上げた瞬間。

「ぐっ……!?」

内側からではない。外側からの激しい鈍痛。後頭部がずきずきと痛む。
――しまった、誰だ……!
意識が散漫しすぎて背後に迫られていたのを感じれなかった。
素早く口元に布か何かを当てられる。あ、と思った次の瞬間には俺の意識は途絶えた。



 つん、と嫌な匂いが鼻に付く。嗅ぎ慣れた血の匂い。
頭部が濡れている気がしてそれを拭おうとしたが手が動かない。腕ごとだ。
――何だ……なんで動かせねえんだ。
重たい瞼を開けて視線を下に向ければ、胴体に腕ごと縄で縛られていた。
腰に差していた刀はもちろん見当たらない。舌打ちをしようとしたがガムテームを貼られていてもごもごと口が動くだけだった。ちくしょう、肌が荒れるじゃねえか。脱出したら全員ぶった斬ってやる。






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