そんな表情を見て思わず胸が高まってしまう。
土方が俺に向けているのは父親のような感情であって恋慕では決してないというのに。分かっているのに一々反応してしまう。

「やっぱり今日病院行ってこい」
「コロコロと意見が変わりやすねぇ。怪我はしてないし平気でさぁ」
「いいから。行けっていってんだ」
「嫌です。やけにしつこいな、まさか心配してんですかぃ?」

からかうようにそう言えば土方は悔しそうに黙るか怒る。それがお決まりのパターンで、これ以外の対応を俺は未だかつて見たことがない。

「……しちゃ、悪いかよ」

怒りや悔しさを感じられない曇りのない眼で真っ直ぐ俺を見てる。
こんなパターン初めてな訳で、というかありえない訳で。
心臓の鼓動は隠せても自然と紅潮する顔を誤魔化すことはできなかった。

「き……」
「き?」
「キモい。キモいキモい!!あーーっ鳥肌たった!」
「おい泣くぞ」
「あまりにキモいから寒気もしてきやした。厠行ってきやす」

土方の返事を待たずに勢いよく部屋を飛び出す。
とにかく一刻も早くこのみっともない面をどうにかしなければ。
言葉の通り頭を冷やせば俺の顔も冷えるんじゃないかとバタバタと洗面所へ向かう。

きっとあっちはなんとなく気分で言ったんだ。絶対そうだ。
深い意味なんてあるはずがないんだ。

冷たい井戸水で顔を洗い、自分自身を洗脳していたら、不意に声を掛けられ思わず体が飛び上がる。濡れたままの顔を上げ振り向いたら可笑しそうに笑っている山崎がタオルを持って立って居た。

「ひとりごと、心から漏れてましたよ」

はい、とタオルを渡され無心に顔の水滴をふき取る。

「ザキ、ひとりごとってどこから」
「いや単にぶつぶつ聞こえただけなんで内容までは分かんないっすよ」
「焦ったじゃねえか馬鹿野郎。罰として今日の夜の巡回変われ」
「ちょ、俺今日本当は非番なんですけど!もしかして沖田さん、昨日の事まだ気にしてんですか?」
「は?何言ってんのお前」
「今日の巡回、副長とが気まずいんでしょ!?」

こいつどっかで脳みそ落としてきたんじゃねえかな。
山崎の言っている言葉の意味が分からなくて眉間に皺が寄る。
そんな心情を察したのか山崎は急に口ごもりだした。「あっー……も、もしかして教えられてないんですね」
「だから、何が。いい加減にしねえと新品ミントン折るぞ」
「世の中には知らない方が幸せなこともあるんですよ沖田さん」
「お前がぽろりしなきゃ多分俺は一生知らなかったわ」


山崎の胸倉を掴みゆっさゆっさ揺すりながら問い詰め続けたら、観念したようにため息をひとつ零した。

「じゃあ言いますけど」

絶対怒らないでくださいね、と念を押され頷く。
周りを簡単に見渡した後耳元に顔を近づけ俺の知らない秘密を囁いた。

「昨日の捕り物の時、沖田さんに副長がキスしたんですよ。
喉に何か詰まって呼吸困難になっていて。助ける為に。結局沖田さんが自力で飲み込んじゃったみたいで副長は人工呼吸のつもりがただキスした形に……」

一瞬で事態を把握した後、当然の如く俺の脳みそはフリーズした。
見開いた目と開いた口が塞がらない。皆が見てるのにとか救助の為とかはさした問題ではなくて。あの人と俺の唇が重なってしまったことが大問題なんだ。
あの時の夏の出来事がまた頭を過る。せっかく落ち着いたのに、俺の顔は再び紅潮してしまった。




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