「ぐっ……副長!沖田を何とかしてくれ!」
永倉は壁に追い詰められ、顔近くぎりぎりに刀を交差させていた。
「っ総悟!!」
肩の傷を庇いながら、土方は沖田の方へ歩み寄る。その様を高杉は只黙って見つめ、他の隊士はその威圧に押され、近付け無かった。
「やめろっ……」
後ろから抱き込むように土方は沖田を押さえ込んだ。一瞬抵抗を見せたものの、幾度も自分の名を呼ぶ土方の声に少しづつ沖田は正気を取り戻していく。
「……」
揺るくなった掌からカランと渇いた音をたて、血塗れた刀が落ちた。
ぼんやりと霧がかかっていた頭が徐々に冴えてくる。
───あれ…俺…?
一度瞬きをして、目の前を見たら安堵するような顔をしている永倉がいた。それに身体が上手く動かないと思い、不思議に思えば土方が強く俺を抑えている。
「永…倉?……土方さ……」
──土方。
認識した途端にサァと一気に顔が青褪めた。
「っ土方……!!」
掴まれていた腕を振り払い、慌てて振り返れば土方は苦笑いをして、優しく俺の頭を撫でた。
「っはー……すぐ暴走しやがんだから…」
「え……?」
そんなことより傷は、と言いたかったが土方の言葉が引っ掛かり首を傾げれば、味方じゃない声の主が愉快そうに教えてきた。
「そこらに転がってる奴等はお前がぶち殺したんだよ、酷ェもんだよなァ…」
「──え?」
何故高杉が居るのか訳が解らなかったが、その言葉に導かれ俺は辺りを見渡した。
「ッ……!」
一面の、血だまり。
まるで絵の具を業と撒いたかのようにそれは夥しく広がっていた。そしてその上に無機質に横たわる屍体。
「全部、アンタが殺したんだぜ?隊長サン」
動揺する俺を嘲け笑いながら、高杉は凄いじゃないかと拍手を送ってくる。
「土方さ……俺」
全員殺すつもりなんか無かった。抵抗すれば斬りはした。だが、出来得るならば捕らえることが優先だった。
なのに────
「……いい、平気だ」
駄目だ。
いくらアンタが慰めてくれたって疼きだした嫌悪感は止まりはしない。こびりついたこの血を無かったことになんて出来る筈もない。
「──げほッ……」
「……オイ」
「げほッ…ゴホン!…っ…ぅ、ゲホンっ…」
なんだ……咳が止まらない。苦しい。
「お前、なんでそっち側に居るんだ?」
「────」
苦…しい。