奴等が潜伏している小屋は、三か月前のあの小屋を思い出させた。
遠巻きに観察するとそれは木造で、あまり大きいものでは無く、こじんまりとしている。しかしそれがまた奴等にはいいアジトなのだろう。
あまり人のこない西の森は好都合な訳だ。
「推測からして、中にいるのは約20人程。先日の犯人もいる模様です」
望遠鏡を片手に山崎が土方の方を振り向く。煙草臭いヤニ上司は、こんな時でさえ煙草を吸っていた。
「そうか。ちと多いが……行けるか?」
そう言って俺含め、一番隊に尋ねてくる土方を鼻で笑ってやった。
「誰に聞いてるんでさァ、こんな数俺らには何て事ねぇよ。…なァ?」
一番隊の奴等に挑発的に言えば、眼の色変えて皆頷きだす。
土方とアイコンタクトを交わすと同時に、一気に一番隊は小屋の中へと攻め入った。
突如の事で動揺している攘夷派に、俺の後ろから静かな足音をたててやったきた土方さんは、余裕の素振りで奴等に警告をする。
「真選組だ。殺人、反逆行為によりお前らを逮捕する。……神妙にしろ」
そんな警告奴等が聞く筈も無く、怒声をあげて切りかかってきた。逃げていただけの穏健時代とはひと味違うと言う訳か。
「刃向かう奴ぁ容赦なく斬り捨てろ!誰一人として逃がすんじゃねえぞ!!」
土方が荒々しく命令したのを最後に、いっきに此の場は戦場になった。
ぶつかりあう刀の金属音が嫌に耳につく。
いつも通りバサバサと敵を斬り捨て、なるべく返り血を浴びない様にしてる俺に比べ、土方はまるで血の雨にでも打たれた様だった。
もう少し綺麗に戦えないものか。
(殺すのに、綺麗も何もないけどねぃ……)
目の前で、ものすごい剣幕で刀を振り翳してきた浪士を、何も込めず只バサリと切り付け、鮮血が不意に顔に掛かってしまった。
「──ちっ」
ペッと口の中に入り込んだ血を吐き出し、赤が付き過ぎた刀を振りそれを振り落とす。
自分の周りに敵がいなくなったなと辺りを見渡せば、皆それぞれ生と死を隣り合わせに攻めぎあっていた。
ぴちゃ……とゆう音に眼を下に向ければ一面の血溜まり。8人くらいは斬っただろうか。
「─────」
不意に胸に嫌悪感が広がり、何かが込み上がってくる。
「うっ……」
ゲホゲホと咳き込めば、それは止まらず俺を苦しめた。
「──総悟!?」
俺に気付いた土方が、慌てたようにこちらへ向かってくる。
───その背後にギラリと妖しく光るモノを見て、俺は悲鳴に近い声を揚げた。