バタバタと早る足音、騒がしい人の声。まだ早朝だというのに真選組屯所は騒々しく、いきり立っていた。

皆、刀の調子を確認したりこれから行なう任務に向けて心の準備をしてる奴もいる。
俺はと言うと、何をするでもなく只菊一文字を無心に撫でていた。

「お前、たまには菊の手入れしてやってんのか?」

俺の後ろの柱に背中合わせで話しかけてきたのは、土方。
同じく何もせず、刀に触れている。

「まあ、たまに。そっちこそ和泉ちゃんの手入れしてんですかィ?」

振り返らずそう言えば、土方は唸った。

「変な呼び方すんじゃねえ。当たり前だろ、毎日してる」

「ふぅん。マメですねィ。そういえば近藤さんの虎鉄ちゃん直ったんですか?」

「あぁ、先日やっとな。お妙さん追いかける前にそっち優先しろっつー話だよ」

はあ…と呆れた様に溜め息をついて、土方は鞘から和泉守兼定を抜いた。流石手入れを怠らないだけあって、刃は汚れ一つ無く妖しく輝いている。

「……そろそろ時間でさァ、外出ましょうや土方さん」

そう促せばあぁ、と鞘に刀を納めすたすたと玄関に続く廊下を歩いて行った。
それに続くように俺も土方の後ろをゆっくり歩いてゆく。腰にある刀をすらりと少し抜き、確認してみると一瞬刃に血が伝っているかに見え息を飲んだ。

「………っ!!」

だが再度見直せば、血など何処にもついていない。ふー…と安堵の溜め息をついて、落ち着こうと思ったが、癪にもこの身体はぶるぶると震え出した。

「ちっ……」

何を今更恐れる?
あんなに散々殺してきたくせに。

「──総悟っ!!何してんだっ」

とっくに外に出た土方に、急かすように叫ばれ、瞬発的に伏せていた顔をあげる。

「今行きまさァっ!」

とりあえず震えを何とかしないとと思ったが、いつの間にやらそれは抑まっていた。

そうだ……
甘えてなんかいられない。


俺は静かに決戦への扉を開いた。







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